148

「Slumber……slumber……オー……my ダー……リン…… 」


 声が……聴こえる。


「Baby...」


「や……メロ……」


「Gently rocked by...」


 穏やかな……


「Mother’s gentle hand...」


 声だ……


「Softly rest and」


 母さんを思い出す。


「safely slumber,」


 俺をこの世に繋ぎ止める唯一の鎖。


「While she swings thee by this cradle……」


「止めろ!!!!!!」


 体を起こそうにも、痺れて起き上がれなかった。


 拘束された手足は、母さんに繋ぎ止められる鎖と同じだ。


 俺……我は、結局何も終わらせられなかった。


「どうして日本語じゃないの?」


 HyLA特務機関の円盤を運転しながら、緋色の男が尋ねた。


「君の好きな曲だろ?」


 緋色の男がハミングする。穏やかな声……


 母が、我が小さい頃に歌ってくれたララバイ。でも馬鹿な父親が死んで、その声は止んだ。


 IOP消失に巻き込まれたわけでも無い。


 アルピニストとして世界中を巡り、夢を追って死んだ。ただ、それだけだ。


 母さんの瞳は何も映さないように、言われるがままに働いて、休みはただうずくまり、機械のようにまた、働きに出る。


 今の我と、同じだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る