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相良さがら純之助じゅんのすけ君」


 何故、我の名前を……調べたのか、恐ろしき国家権力。


「今日から毎日、このとう……君の好きな呼び方だとウテナ……かな。放課後、このウテナを登ってもらう」


 何故だ。絶対に嫌だ。我は帰宅部ハイエリートだ。


 他のキラキラしたやつらのように、体を動かしたりはしない。それが我のデフォルトだ。


 というか、何故我の嗜好を……。


 我は孤独ぼっちというやつだ。


 聞き込みをしたとて、我の嗜好を答えられるやつはもういない。


 ……ハッキングでもしない限り……。


 我は、少し上を歩く、緋色のロングコートの男を見上げた。明らかに異質な男。


 これは、誘拐だろうか。いな、我は自分で付いてきた。この先にある絶望が、やっと全てを終わらせることを期待して。


 我は先刻さっき、何故、星ケ咲ほしがさき萩爾しゅうじの写真を見せられたのか……。


 覚えておくように。


 そう言ったわりに、緋色の男は、ニックネーム(コードネームか?)と、二人の年齢しか明かさなかった。


 United States of JAPAN特有の、ビー玉みたいな黒い瞳の少年少女。


 渡辺ワタナベと同じ瞳。


 世界中で量産されるアンバーアイの我の瞳とは違う、折れない瞳の色だ。


 人を吸い込むような、未知の可能性が眠る、黒の瞳。


 永遠に我には届かない……

 

 どんなに、願っても。

 



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