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 青灰色あおはいいろの空が、新宿と似てる。


 煉瓦れんがで積まれた歴史の証跡は現存する時の道標みちしるべだ。


「ここから今日が始まるんだ……」


 弟は今を生きている。


 塔の最上部の報時球を見上げるシュウジの瞳は、いつだって光を宿している。


 それが少し眩しくなって、アタシも空を見上げた。


「古代には、何度も閉鎖されたのよ。でもロンドンの人たちは……いいえ、ユーラシアの人たち……それに8カ国全ての人たちも、そうね。沢山の叡智えいちを復活させてきた」


 アタシは熱海の温泉を思い出した。


 あの時も楽しかったな。


 うん。人は何度でも甦らせる。幸子さちこなら、だってそのほうがいいじゃん☆とか思うのかな。


「ここにはね、プラネタリウムもあるのよ」


「わ☆星って大好き☆☆☆ミカ、行こっ☆」


「……うん!」



 人はいくつもの歴史を作り、壊し、甦らせてきた。


 美しい星々。


 そのひとつひとつに、数え切れない歴史の積み重ねがある。


 この宇宙の星がひとつ消えても、もしかしたら、何も起こらないのかもしれない。


 だけど、星たちはこんなにも綺麗だ。


 ……涙が溢れるほどに。


 アタシが心を向けてる世界は、果てのないやみの中で、きっと、綺麗だ。



「綺麗だったね」


 帰り道、針葉樹の騒めきの中で弟が言った。


「うん」


 星も、新宿に似た、この空も。

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