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幸子さちこ、ちょっと先行ってて」


「ん、オッケィ☆」


 アタシは幸子さちこと分かれて、通路の小さい扉から、中庭に出た。


「うー、さむっ!」


 鼻がじん、と痛くなって、手足が急に冷えた。


 そのせいかもしれない。


 思ったより、強めの声が出てしまった。


「あのさ!」


「……みっちゃん」


 みっちゃん、と久しぶりにちゃんと呼ばれた気がする。


 でも月の下で振り返ったそうちゃんは、変なゴーグルをしてて、サンタみたいなグレーのつけ髭をしてた。何なのよ、それは!


「ゲーム、してたんじゃないの?」


「してたよ。楽しかったなー。みっちゃんもやればいいのに」


「下手だもん」


「ま、難しいからね」


 バレていないと思ってるのか、そうちゃんはホログラムモバイルを浴衣の袖にスッと仕舞った。


「何なわけ?そのゴーグル」


 そうちゃんはゴーグルを外した。懐かしい兄の瞳。


 黒い、秘密のビー玉みたいな。


「これ、格好いいでしょ?」


「は?」


「ほらさ、ヒーローみたいじゃない?変身!!みたいな」


 そうだ、そうちゃんはこんなやつ。こんな風に始まって、シュウジが真似し始める。

 そして一回はアタシに強要し始める。


「……シュウジには勧めないでよね」


「なんで?好みじゃない?」


「アタシは絶対着けませんからね!」


「あはは、分かった」


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