69

「こういう場所なんだ……」


 アタシたちは一億個の星の海の中から、二つの球体を探した。


「……綺麗」


 不謹慎にも、そう思った。


 草原に浮かぶ球体は、小さい頃三人でみたホタルにも似てる。


「心で探すんだって。ほら、あれだ」


 寄り添う二つの小さな球体が、アタシたちの周りをくるくると回った。


 母がそれに触れると、優しい名前が流れ込んでくる。



 雨沢光一郎あまさわこういちろう——。


 雨沢三智子あまさわみちこ――。



 覚えてもいなかったような記憶と、心に焼き付いた二人の笑顔のイメージに、涙が溢れる。


「う、う……うぁ——ああああぁぁあ!!!!」


 アタシは叫ぶように、泣いた。


「悲しい!寂しいよ!!!!」


「母も寂しいよ!!!!!!!」


 どれくらい泣いたかわからない。気づくとアタシの嗚咽おえつは変な咳き込みに変わっていて、しくしくと泣きながら弟が饅頭を差し出してきたのに気づいた。


 背中の母の手があったかくて、なかなか涙が引っ込まない。


「なんこれ……不謹慎が過ぎる、でしょ」


 草原に座って、記憶饅頭と刻印された光る饅頭を食べる。


 甘くて、美味しかった。


「さっき、売店にあったから……」


 弟も、母も草原に座った。


 アタシたちはあの日以来初めて、下の家族のことを話した。


 別れは、記憶に鍵をかけてしまうのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る