夏の日のミラージュ……——甦れ!草原の風

48.5

 苦渋を吸い込んだ美しい白球が、暗い夜空に飛んで行く。


 和室のテレビがキラキラと光り、一瞬、世界が止まった。


 9回ウラ、一点差、ランナー一塁、二塁。


 痛烈な打球が外野フェンスで跳ね返り、瞬間、一塁の走者がホームに帰った。



 苦しい闘い。


 勝てないかもしれない。


 でも、選手たちは勝ってくれた。



「姉!野球観た方がいいと思うよ」


 そう言ったのはシュウジだった。


 ちょうどその日は祝日だった。レイダーの搭乗もない。だけど野球なんて知らないし。そう思ったけど、母も観よう観ようとアタシをちゃぶ台に座らせた。



 5億年前の奇跡の試合の再来。


 古代の奇跡の鮮やかな甦り……。



 和室の小さなテレビの中で、実況の声が叫んで、世界が揺れていた。


 この間、私たちを応援してくれていたパブリックビューイングの会場の舞台の上で、今度は鑑原三姉妹が涙を流して声を出していた。



 シュウジも母も、涙を流していた。



 闘っているのは、私だけじゃない。

 アタシたちだけじゃない。


 先の見えない闘いに、身を投じているのは。



 それぞれの闘いが、世界の心を熱く動かしている。



 シュウジが、冷蔵庫からソーダを持ち出して、サブローが物凄い勢いで缶を振っている。


 アタシはアイツらを止めなきゃならないッ!

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