29

「上のお姉ちゃん、みっちゃん、シュウジ、おはよー」


 玄関のドアが開いた。


 雨、みたいな優しい声。


「お茶碗……は割ったんだっけな」


 そうちゃんは、緋色に塗られた綺麗なお箸を母の台所から持ってきて、綺麗な所作で卵焼きを食べた。


「うん、おいしいね」


 兄の柔らかい笑顔が帰ってきた。


「みっちゃん、ご飯少しくれる?」


 実華みかという名前に自分は足りていない。そんな話をした日から、そうちゃんは何も言わずにみっちゃんと呼んだ。


「みっちゃん?おわっ!」


 シュウジがそうちゃんに飛び付いた。

 母は、泣いていた。

 かえでそうちゃんの足元でゴロゴロ言っている。


 アタシは……アタシは……。


「宗一郎君、来てくれてありがとう。お母さん、ミカ君、シュウジ君、雨沢宗一郎あまさわそういちろう君だ」


 そうちゃん!……!

 シュウジが叫んでいる。

 そうちゃんの顔を何度も見つめた。

 変わってない。

 背は伸びているけど、柔らかい笑顔の兄。


「……三島、サブローさん、ディストレスってこれですよね」


 そうちゃんは急に鋭いでテレビを見つめた。


「そうだ、全生物の急所のプログラムを追加したから、 HyLAハイラの円盤で倒せるはずだ……」


「苦戦、してますね」


 画面に、前にアタシたちが倒した猿のミニみたいなやつらが円盤に向けて凄い勢いで石を投げていた。

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