12

「そんなわけで……」


 サングラスの男はお茶を淹れながら言った。

 小さな白い部屋。


 だけど、調度品はすべて、高そうなものだった。


 壁一面に映し出された大型ホログラムビジョンには、大猿が倒れた場所の跡が映し出されていたが、壊された建物も、木も、全てが少しずつ形を復元していた。


 人間以外のものは、全て管理されたAIdエイドなのだから。


 アタシはかえでを抱きしめた。

 どこも、怪我はないみたいだった。


 三つ並んだ椅子の真ん中で、母はアタシとシュウジの背中をさすっていた。


「ミカ君、シュウジ君、君たちは選ばれたんだよ。対、AIdエイドの対抗勢力として」


 アタシはため息をついた。

 確かに、弟ならやれるかもしれない。そう思った。でも……。


AIdエイドAIdエイドを呼ぶ。それは知っているね?」

「だから、なんですか?」

「すまないが理論はまだわかっていないが、ディストレス化したAIdエイドが、生体AIdエイド、つまり各地のペットAIdエイドを集めている」


 ……確かに、大猿はかえでを狙っていた。


「残酷だが、処分か、搭乗か……君はどちらを選ぶ?」

「……処分……」


 なんてできるわけない。

 一択の質問。


「搭乗すれば、かえでと暮らせるんですか」

「善処しよう。それに少し安心してほしいのだが、えっと、シュウジ君がバーキングアローと名付けた技術は、警察のパトカーにも搭載され始めている。小規模なものだけどね。君たちのファーストミッションは、30日後のホーリーチェリーの開花の阻止。ホーリーチェリーの破壊だ」


「わかりました、乗ります」


 大型ホログラムビジョンの右上に今の時刻、21:19分。


 右下には……


 30日


 滅亡までの日数が変わらずに映っていた。


「僕も乗ります」


 シュウジの返事を聞いて、母はアタシたちの手をぎゅっと握った。


「すまない。ではこれから訓練についての説明と宿舎の説明を……」

「いや、アタシたち明日学校があるんで」

「ん!?」

「いつも21時には寝てるんで!」


 ちゃんと寝なくちゃならない。

 アタシもシュウジもかえでも母も。


 今頃には、アタシたちのアパートも復元されている頃だ。


「確かに眠いんで……すみません」


 弟は笑顔で、パトカーのワープ装置を操作し始めた。


「帰ろ!母」


 私たちはパトカーに乗り込み、エリア新宿・セクション新大久保の木造風のアパートの前にワープした。

 いつもの夜空が広がって、いつもの新宿の匂いがした。


 アタシたちは順番にお風呂に入って、麦茶を飲んでぐっすり寝たのだった。

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