薄明のハイドロレイダー

小木原 見菊子

プロローグ

実華みか、死ぬなっっ!!!――……」


 通信を切った。


 今からきっとアタシは死ぬ。

 最後まで、ダメな姉だった。

 だけど、私がやる。


「アンタはやりたくないでしょ」


 だから私がやるの。

 私はアンタの姉だから。


 操縦管のグリップを強く引き上げる。

 水素高炉すいそこうろが爆発を始めた。

 コックピットに警告音が鳴り、機体が激しく震えている。


 大丈夫。やれる。


 アタシは息を吸い込んだ。



「……薄明はくめいの光が白炎びゃくえんとなる」


「私の涙を光に変えて」


「降り注げ!」


「ディストレス!!!」


「バーキングゥ!!!!!」


「アローーーー!!!!!!!!」


 雲の裂け目から、

 光の炎が鋭い矢となって地上に降り注いだ。


 一発で届くなんて思ってない。


 アタシの機体がアイツに破られた音がした。

 枝葉に擬態した鋭い刃に装甲が破られていってる!


「はぁー……」


 死ぬ……たぶんアタシは死ぬ。

 でも無駄死にってヤツにはならない。

 装甲が剥がされても。

 水素針すいそしんが砕け散っても。


 ハイドロレイダーの自爆で、全部消える。

 苦しみをもたらす敵ディストレスなんて、消してやる!


「ディストレス・バーキング・アロー!!!」

「バーキング・アロー!!!!!!!」


 水素針すいそしんを敵に向け、叫んだ。

 声が枯れるまで。

 やった!クリティカルヒット!


 !?……そ、……んな。


 敵は飛行した。

 飛べないハイドロレイダーアタシに狙いを定めたまま。


「やめてよ……降りてきなさいよ!!!」


 アタシは絶叫した。


 死ぬ。

 相手をしとめることなく。


 私は死ぬの?


 モニターごしに敵を見た。

 植物に擬態した飛行するAI。


 まるで雲を宿木やどりぎとする生命の


「届かない。負けるの……?アタシは……」


「負けないよ、実華みか。地球は終わらない」


 聴こえるはずのないシュウジの声が響いた。


「シュウジ……あれはシュウジの……」


 美しい矢が降り注いでいた。

 私よりも優しく、天高く流れる光の雨、滝。

 終わらない流れ星。

 美しく暖かい白い炎。


 絶え間なく激しく降り続く光。


「綺麗……」


 緑のAIは美しい薄明光線はくめいこうせんの中に溶けた。

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