第9話

マリアさま。

元気でいらっしゃるのでしょうか。

私は、ただ、ただそのことだけを想って、生きています。

私は

わたしは・・・


【2126年12月29日・夜・マルノウチセントラルタワー】

俺は、あの日の声を頼りに来た。

ここで何が起きるのか俺は知らない。

しかし、今日ここでは聖少女たちの会議が行われるらしい。


きっと奴らも絡むから呼ばれたのだろう。


どんなスパイでも堂々と、正面玄関から入るバカはいない。

通用口から姫を連れた俺は入って行った。


「ノウマンさん。聞いていいですか?」

姫は俺の瞳を覗いて、そう言った。

「ああ、なんだ。」

「マリア様にはいつ会えますか?」

俺は少し固まった。

なぜなら、マリアに返せば、彼女はどんな運命を辿るか分からないからだ。


「解放祭後には会わせてやるよ。また、あんたが、拉致られても困るからな。」

そうは言ったが、もう会えないだろう。


入り組んだビルの内部。

突然、俺はそこにフェルリンを見つけた。

「イフリート先にマリアに会いに行っていてくれ。」

俺は駆けだした。

ここで俺が別の行動を変えていたらどうなっただろうか。




少しずつ奴に近づいていく。

柱に張り付いてエレベーターに入る奴を見た。

俺はエレベーターに靴を挟み銃を向けてこう言った。

「決着を付けようかフェルリン。」

そうすると奴はこう言った。

「ようこそ、裏切り者」

そんな憎まれ口を叩いたが、俺は静かにRFのボタンを押して、

「空を目指そう」と言った。


エレベーターは止まることなく屋上に着いた。

銃を突きつけて風の吹きつける屋上でフェルリンを歩かせる。

「私を殺しても変わらんぞ。」

あいつはそう言った。

「だが、そうしないとナガシマの惨殺事件と、

キバ・コウベの工場の犠牲者の気が晴れない。」

フェルリンは顔をしかめた。

俺は追求した。

「お前は俺達を使って、何人の旧人類を殺した?」

フェルリンは言われて反論した。

「お前たちは言われてやったんだから関係ない。」

しかし、それに対して俺は、

「果たしてそうかな。ナノマシンを入れただろう。あんた。」

沈黙が続いた。


「ああ、しかし、お前には効かなかった。旧人類だから。」

そうだ。新人類には旧人類にはない器官がある。

「副肺は、旧人類にはない。だから…」

副肺は、旧人類から分化された奥の肺。

旧人類と比較すると二倍近くの酸素を取り入れる。

そんなものが止められたら新人類は死ぬ。


じりじりとフェルリンを追い詰める。

「俺を殺すのか。」

奴の頭には汗が出ている。

「もちろん。」

後ろに屋上の淵にさがっていく。

「しかし、それは…」

ジェット音が聞こえた。

「無理だね。」

その時、フライングボードが現れて銃撃が始まった。

「くそっ!」


後ろから、ジェットソードが来た。

水素ボムが散布されて危機が迫った。

俺は屋上の小部屋に逃げ込んだ。

大爆発だ。

耳が痛くなったがすぐに立て直した。


そこにはある男が立っていた。

「ノウマン・フェアリーフィールドさん。」

この声は…アジトの前で聞いた?

「はじめまして、ショーン・ハウンドです。」


細身の少年。下手すれば、少女に見えるかもしれない。

ハウンド…か。

あの一族はよくわからない。

父は政治家。

長男は刑事、次男は調停官の裏切り者。

長女は学校教師、次女は医者、三女は平和を訴える学生。

そして、この推定三男は…

「疑われてます?僕。」

ああ、そうだ。

「僕は、フェルリンの元にスパイとして潜入している。」

信じられるかっ!?


「そして、解放祭の日に爆弾魔が現れるのを掴んだんだ。」

‥‥‥フェルリン。

何かしてくるとは思ったが。


「僕に協力してくれませんか。」

‥‥‥

「そう言えば、イフリートさんを持ってきましたよ。」

おい。

「どうしますか、協力してくれればイフリートさんに仕組まれたものを

教えてあげましょう。」

「いいだろう。」

即決だった。

話を聞くと、俺達は作戦を開始した。

ショーンと分かれ、俺はヨコハマドームへ潜入するために、

ヨコハマのグランドホテルを目指した。


【同日・深夜・ヨコハマ・ヨコハマグランドホテル】

前々大戦のころ、作られたらしいそのホテルは、

今は、遺跡程度に放浪者を包んでくれる。

ホテルと言ってもチューブホテルや、ハウス型ではなく

前時代のルーム型である。

青いカーペットの階段を上り、部屋に着いた。


ニホンを乗っ取ろうとした提督を迎えた部屋。

そこが俺達の部屋だった。


「今日の宿はここですかノウマンさん。」

姫の声。

「ああ。」


少し時間があるので、ヤマテの方へ行ってみた。


地震で崩れた遺構の上に立つ。

下手するとヨコハマ一帯もこのようになってしまうかもしれない。

山から転げ落ちた建物。

住人を抱いて・・・

マリアを抱いて転げ落ちていく運命。

そんな言葉が頭をよぎりながら


ホテルに帰ると

風呂に入って眠ることにした。

さすがに姫の隣で寝るのははばかれた。


だが、

なんだろう

この

不安は

違和感は

なんなんだろう。

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