しぶがき
柿木梓杏
はじめに
一番最初の記憶は、ベビーベッドに横たわりながら右横の壁にかかっているおそらく
乳児期から幼児期の記憶は時系列も曖昧で、前後の記憶は飛び飛びにはなっているが、割と覚えている方なのだなと気づいたのは大人になってから友人たちと子供の頃の話をしていた時だった。
ベビーベッドの柵についた横棒にそろばんのように数個の球が通されていて、その球を左右に動かして遊んでいるところ。プラスチックでできた箱にいろんな形の穴が空いていて、同じ形のブロックを穴に入れていくおもちゃで遊んでいるところ。砂鉄を利用したお絵描きパネルで絵を描いているところ。母からもらったチラシの裏に鉛筆で落書きしているところ。仕事から帰ってきた父から高い高いをしてもらっているところ。右手のひらに僕を乗せて、まるでラオウの最期のような姿勢で、片手で持ち上げる方法なので、天井に頭をぶつけそうになるほどの高さになりとても楽しいのだが、同時に落ちたら嫌だなと言う思いもあった。
「よく覚えてるなあ」
僕の話を聞いて友人の一人がそう感心した。
「幼稚園の頃に、帰る前に外に園児が並んで、先生に「また明日」の挨拶を迎えにきた母親とするんやけど、後ろに並んでた男の子と足で砂を掛け合ったりしてた。母親の手前、かっこいいところ見せようと負けないようにとか思ってたな」
「それなんで覚えてるん?どんな記憶やねん」
別の友人がそう言って笑った。確かになんで覚えているのか自分でも不思議なくらい日常的な風景だ。
記憶はいつも感情とセットになって呼び起こされる。僕がそれらを思い出す時にいつも感じていたのは、取り残されたような孤独感と、どうにもならない一歩後ろから見たような白々しい虚しさだった。
これから暫くして、僕は自分の過去と向き合う機会が一気に増えることになる。
この『しぶがき』では、思い出した順番に自分の過去を書き連ね、ひいては自分の内面と向き合う自己セラピーの側面も持っている。自らの、見方によっては暗部とも言える過去をどれだけ開示できるかをこの場を借りて試みてみようと思う。
「こんな人に読んでほしい」と言ったものがあるわけでもない、何より自分自身に読ませるために書いていく。
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