【大雨特別警報発令72時間前】

話は、7月3日のことであった。


この日の予報は曇りだが、時おり日はさしていた。


前日の大雨により浅川の水位は依然いぜんとして危険な状態であった。


茶堂橋ちゃどうばしは、前日の大雨で水浸しになったので水が引くまでの間通行止めになった。


その他の浅川にかかる小さい橋も水浸しで通行止めになっている箇所があった。


豪邸いえがある場所は、山や浅川沿いから離れているところにあったが、北高の東側のヘイ沿いにある側溝ドブの水位がタプタプ満タンで危険な状態であった。


そのため、側溝ドブの水位が下がるまでの間は歩行者通行禁止になった。


豪邸いえの近辺の通りは、通学路になっていた。


側溝ドブの水位が完全に下がるまでの間、児童生徒の通学時間帯(朝7時から8時半くらいまで)は(自転車も含めて)車両通行禁止の措置が取られた。


この日から向こう1週間は、大気の状態がより不安定になることに加えて台風から変わった温帯低気圧が日本海にいすわるために、警報級の大雨が数日つづくと言う予報が気象庁から発表された。


もしかしたら…


大規模な土砂災害が発生するかもしれない…


人々の心は、より強い不安にさいなまされた。


時は、午後1時過ぎであった。


宮下町みやしたちょう豪邸いえの大広間にかおると榎戸夫婦きょうじゅふうふ西路見夫婦さいろみふうふ菜水なみがいた。


テーブルの上には、離婚届が置かれていた。


健一郎と菜水なみは、リコンすることになった。


理由は、ふたりは最初から結婚する意志がなかった…であった。


健一郎は、製造工場しょくばから9月末の契約満了を持って解雇クビになる…


だから、菜水なみは健一郎とリコンすると訣意けついした…


かおるが菜水なみに代わってリコンする理由を伝えた。


しかし、榎戸夫婦きょうじゅふうふ西路見夫婦さいろみふうふ離婚届しょめんの保証人の欄にショメイナツインすることをためらっていた。


なんで健一郎くんと菜水なみさんがリコンしなきゃいかんのぞ…


せっかくむすばれたご縁なのに、もったいない…


かおるは、口をへの字に曲げている榎戸西路見夫婦ふたくみのふうふに対して、ものすごくつらい声で言うた。


「あの…今回のリコンは…菜水なみさんの都合が急に悪くなったことと…健ちゃんが勤務していた職場が雇用契約満了で解雇クビになることと…それから、菜水なみさんの実家で都合が悪い事象が発生した…で、これ以上結婚生活を続けていく古都がコンナンになりました…健ちゃんは…昨日で製造工場こうじょうに辞表を出してやめました…やめたあとは、実姉おねえさまの命令で陸上自衛隊ジエータイに入隊する予定です…このあと、特急バスに乗って…出発する予定です…健ちゃんと菜水なみさんが使っていた部屋は、このあとリサイクル業者さんが来るので全部処分します…菜水なみさん、それでいいよね。」


菜水なみは、ものすごくつらい表情で首をたてにふった。


榎戸夫人きょうじゅのおくさまは、ものすごくつらい表情でかおるに言うた。


「残念ね…でも…よく考えてみたら、健一郎さんと菜水なみさんは、気持ちが結婚に向いていなかったようね。」


榎戸きょうじゅは、つらい表情で『そうだったな…』と言うて肩を落とした。


西路見夫人さいろみのおくさまは、つらい表情でかおるに言うた。


「それで、菜水なみさんは今後どうするおつもりですか?」

「今朝早く、菜水なみさんのニクシンの女性がくも膜下出血で倒れたのです…ドクターヘリで松山の赤十字病院に救急搬送されました…今…緊急のオペを行っているけど…もう…ダメかもしれない…ようです…ニクシンの男性は要介護度4の認知症で助けが必要なのです…シングルの男の子たちがお嫁さんもらえなくなったので、菜水なみさんの助けが必要になったのです…菜水なみさんは、このあとすぐに松山へ向かう予定です…」

「そうだったのか…」

「せっかく榎戸西路見夫婦おふたくみのごふうふのお膳立てで健ちゃんと菜水なみさんのご縁を結んでくださったのに…もうしわけございませんでした。」


かおるは、ものすごくつらい表情で榎戸西路見夫婦ふたくみのふうふに頭を下げた。


さて、その頃であった。


ところ変わって、浅川沿いにある大型病院にて…


昭久あきひさは、きのうから体調不良で有給休暇ゆーきゅーを取っていた。


昭久あきひさは、朝起きた時にひどいめまいが生じた。


そのために、脳の検査を受けていた。


午後3時過ぎに検査が終わった。


昭久あきひさは、医師から脳の血管に小さなコブが3個あると告げられた。


医師から検査結果を告げられた昭久あきひさは、ラクタンした表情を浮かべながら診察室から出た。


またところ変わって、JR今治駅の前にあるバス乗り場にて…


健一郎は、ボストンバッグひとつを持って旅に出ることになった。


行き先は、言うまでもなく陸上自衛隊の松山駐屯地である。


健一郎は、今の今まで周囲まわりからたっぷりの愛情を受けて生きてきた…


自分自身が甘ったれた性格であることに気がついたので、陸上自衛隊に入隊する…


バス乗り場には、ボストンバッグひとつを持っている健一郎と製造工場もとのしょくばの従業員さんたちが集まっていた。


健一郎は、力強い声で従業員さんたちに訣意表明けついひょうめいを伝えた。


それから数分後であった。


松山市駅行きの特急バスが乗り場に到着した。


ドアがひらいたあと、健一郎はボストンバッグひとつを持ってバスに乗り込んだ。


特急バスは、定刻通りに乗り場から出発した。


従業員さんたちは、拍手で健一郎を送った。


バスがロータリーを回ったあと、従業員さんたちは『ザマーミロバカヤロー!!』『健一郎オドレ製造工場こうじょうのクズだ!!』『健一郎オドレがいなくなったからせいせいしたわバーカ!!』『ザマーミロ!!』…とやじを飛ばした。


従業員さんたちのやじは、バスが見えなくなったあとも響いた。


ヤジられた健一郎は、自分が甘ったれた性格であったことに気がついたと思うが、陸上自衛隊ジエータイに入隊する意志があったか否かについては不透明であった。


ほんとうは…


陸上自衛隊ジエータイに入隊することがイヤだったのではないのか?

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