パラレルリアル
趣味程度。
プロローグ
私は酷く驚いていた。夢は意味の分からないものがほとんどだ。それが通常だから、驚くほどではないのかもしれない。しかし鮮明に記憶にある少女は今、私の前に立っていた。
その子は私が幼稚園児の頃遊ぶ約束をした以降、約束が果たせず会えていなかった。幼稚園児の約束だから、そんなことはよくあることかもしれない。ただ、何故夢に9年前のことが出てくるのか、よく分からなかった。
少女は屈託のない笑顔で、大きな声で話しかけてきた。
「やっと会えたね、るらちゃん!あたし、嬉しいな!」
右側に結った髪がふわぁと揺れる。少女の幼さを小刻みに跳ねる身体が表現している。
あぁ、あの頃と何も変わってないな。不思議な嬉しさで胸がいっぱいになる。
少女は続けて話しかけた。
「あたしの家、来てほしいな!ついてきて!」
「い、いきなり…?」
「大丈夫だよ!るらちゃんは今、夢を見ているんだよ?だから、大丈夫!」
相手は何故、夢の中ということを把握しているのだろう。少し怖い。
ただ、夢の中は私の潜在意識とも聞いたことがある。そう思えば、ある意味筋が通っているのかもしれない。
どうせ夢なら、ついて行ってみようかな。そう思い、私は少女に「行きたい」と告げた。
「じゃあ決まりね!手、絶対繋いでいてね!」
手をつないだ。夢なら感覚がしないはず。それなのに、今は手の温もりが感じられる。気のせいかもしれないけど。
すると今度は、猛烈な眠気に襲われた。寝ているのに。目を瞑り、夢の中で眠りにつくというパワーワードみたいな状況になった。
そしてしばらくして目を開けると、私と少女は電車内の座席に腰を掛けていた。
少女は既に起きていて、弁当箱に入った卵焼きを頰張っている。よく見ると中には卵焼きしか入っておらず、私だったら飽きてしまう内容だった。
車内は古びていて、しかし清潔で、どこか趣を感じさせていた。
赤くてふかふかの座席はとても座り心地が良くて、また寝てしまいそうなので、暇つぶしも兼ねて少女のことについて尋ねてみることにした。
「あの…さ、名前聞いてなかったね…」
まさか夢で気まずい、という空気を感じることがあるとは。
少女は口いっぱいに入れていた卵焼きを飲み込み、少し考える。
「あたし、ツキっていうの」
ツキと名乗る少女は続けて話す。
「でもね、この名前は誰にも言わないでね。現実でも、夢でも」
「何故?」
「それは、言えない、でもとっても、大切な理由があるの」
その時のツキの表情は、さっきの笑顔と対照的に曇っていた。何かつらいことを隠しているように思えた。
でも、変に突っ込まないほうが良いと直感的に思った。だから何も言わずにスルーをした。
「ほら、もうそろそろ着くよ、手、繋いでてねっ」
気づいたときには弁当の中の卵焼きは全部食べられていた。トンネルを抜けると、草が生い茂る田舎町に出た。これまた古い無人駅に停まると、ツキは手を引いた。駅の名前は文字化けのようで、確認しようとしても解読ができなかった。
解読しようと見ているうちに、なんだか身体がふやける感覚がして、そのまま意識がなくなった。
「…ん、朝…?」
「何時だと思っているの!?中学、遅刻するよ!!」
夢から覚めたのか……。変な夢だったな……。
頭がそのことでいっぱいになっている。これでは今日は授業寝落ちするかもな。
重い身体を起こし、私は新しい1日を迎えた。
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