第18話 いる意味

「ファインさん、さっきから水筒飲み過ぎじゃない?」


「んあ、大丈夫大丈夫」


 俺は水筒の中の酒を煽りながらヒメに俺の健康をアピールした。

 ここは菌糸の森、巨大キノコの群生地だ。


 通常の探索者はここまで入ってこない。

 基本的にすぐ殺されるからだ。


 化け物……異質存在アノイメントにはいくつか種類がある。

 まず人型、いわゆる雑魚で一番倒しやすい。

 でかいだけで鈍いし、すぐ転ぶ。蘇石の主な産出源だ。


 思うに人間っていうのは戦うのに向いている形じゃない。二足歩行なんて純粋にスピードを求めるなら無駄の塊だし、頭が大きくてすぐ転ぶし、爪や牙も攻撃力が低い。

 異質存在アノイメントは元人間と考えられており、つまりその中でも人の面影を残している彼らは要するになり損ないだ。


 そして菌糸の森からは人型は消え、サル型が増える。

 どうやら人類は進化前のほうが優秀だったらしく、かなりの強敵だ。


 人型ではしてこなかった遠距離攻撃や、集団行動をそつなくこなす彼らは人類にとって壁であり、生身ではまず勝てない。


「6時方向! 2体接近」


 リョウが警戒を促す。

 奴はどうやらRPGでいうスカウトの役割らしい。索敵や罠などを生業としている。

 戦闘スタイルはダガーと格闘術を用いた超近距離タイプ。

 まあ、所詮は人類なので一人で化け物を倒すのは結構厳しいらしいが、善戦できるだけでも彼の能力の高さを物語っている。


 敵の姿が見え始める。

 異質存在アノイメントには首から上が存在しない。だが、その荒々しさは顔がなくともすぐに分かった。

 サルというよりはゴリラに近いのかもしれない。

 ぶっとい腕と足はそれだけで脅威だ。


 俺は酒を飲んだ。

 ジャンク屋が手元でルービクキューブのようなものを素早く動かす。

 ゴリラの前の地面が小さく爆発した。魔術だ。


 彼の持つ武器はそのままキューブと呼ばれている。ルービックキューブっていう名前はなんか商品名らしい。あれの正式名称ってなんなんだろうな。

 とにかくキューブは立方体を分割して回すものだ。

 各パーツには贄人の身体の一部が練り込まれており、特定の配置にすることによって魔術を起動させる事ができる。

 

 ジャンク屋が使っているキューブは一般的な4分割キューブではなく、6分割の細かいバージョンだ。術式の幅は広がるが、扱いが難しい。


 現状、人類が理解できている魔術は3つだ。

 小さな爆発と大きな爆発と自爆だ。

 これは贄人本人ですらそうだとか。


 一応、ラジオなども開発されていたりするが、それは爆発跡クレーターで取れる謎素材由来の技術らしい。よく知らん。


 遅れてヒメも魔術を発動し始める。

 ヒメはスカウトされてきた。贄人はかなり希少で、ニューサイタマでも5人を超えるかどうかというライン。貴重な人材というわけだ。


 贄人は普通に強い。

 魔術具がなくても魔術を発動できるし、通常の人類よりも力が強いので、魔術を使わなくてもかなり戦える。


 俺はつまみを食べながら、酒を飲んだ。


 だが、流石の贄人といえど、ニューサイタマのトップ2の連携にはかなわないか。眠くなってきたまぶたをこすりながら評価を下す。


 サル型の化け物がリョウのダガーに突き刺され、蘇石に変わった。

 ふむ、圧勝だな。

 これなら深部の探索も行けるかもしれない。


 そして、俺は酒を飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る