129# 戦線

 レイモンド、ローファス、ヴァルム、オーガス——そしてアンネゲルト。


 学園でよく行動を共にしていたこの五人だが、その中でもアンネゲルトは、周囲から実力を低く見られがちであった。


 それもその筈、レイモンドの様に全てに秀でている訳でも、ローファスの様に圧倒的魔力量を誇る訳でも、ヴァルムの様に凄まじい武力を持つ訳でも、オーガスの様に強靭な肉体を持つ訳でもない。


 魔力量は並、属性は“植物”というかなり特殊なものではあるが、特別使い勝手が良い訳でもない。


 魔法に関する知識と技術に多少優れている様だが、この四名と比べるとやはり格落ちする。


 それが、周囲から見たアンネゲルトに対する印象。


 実際、アンネゲルトは戦闘面において他の四名に劣る事は事実である。


 肝心の魔法に関しても、レイモンドやローファスも常識から逸脱する程の力量を持つ為、アンネゲルトが特別優れている様には見られていなかった。


 ただ学園において、レイモンドやローファスに魔法の知識や技術の話で付いていけるのは、教師陣を含めてもアンネゲルト位なものであった為、決して軽視されていた訳では無い。


 周囲が抱くこの認識には、大きな差異があった。


 前提として、レイモンドやローファスが語る魔法理論にアンネゲルトが付いて行っている訳では無い。


 寧ろその逆——アンネゲルトが語る魔法理論に付いて行っているのは、レイモンドやローファスの方である。


 寧ろレイモンドは置いて行かれている事が多く——唯一喰らい付いて行けているのはローファスだけであった。


 ローファスとアンネゲルトがよく行動を共にしていたのは、そういった背景もあっての事。


 アンネゲルトは他の四人と違い、少し珍しい属性を有するだけの、魔力量も並の一般貴族。


 天才とも呼べる常軌を逸した魔法知識と技術——それだけで怪物達の隣に立っていた。


 レイモンド、ローファス、ヴァルム、オーガス、アンネゲルト——もしこの五人に、“誰と一番戦いたくないか?”と問うた場合、一人を除き、皆口を揃えて彼女の名を出すだろう。


 アンネゲルト、と。


 その理由は、彼女が唯一の女性だから、戦い難いから——では断じてない。


 皆が一様に己の絶対的な実力に自信を持つ中で、共通して“厄介”と言わしめるだけの技術と知識が、アンネゲルトにはあった。


 直接的な戦闘を苦手とするアンネゲルトが得意とするのは、解析や搦手、そして第三者の魔法の掌握と——“乗っ取り”である。



「ダンジョンを乗っ取って魔物を操作。それを《機獣》の群れにぶつける——何その荒唐無稽な作戦…って思ったんだけどねぇ」


 リルカはローファスから送られてきた呪文の束と睨めっこをしながら呆れた様に呟く。


 アベルが単身でダンジョンを攻略し、アンネゲルトがダンジョンを乗っ取る。


 ローファスが指示した作戦通りに、事は進んでいた。


 今繰り広げられている作戦は、リルカからすれば常識の外。


 彼女が魔法技術に優れている事は、リルカも前回の経験から知ってはいた。


 そもそも前回、学園の結界を掌握して要塞化していたという事実——これも充分、常識外れな技といえる。


 学園の結界は、計百名もの高位の魔法使いが儀式を用いて作り上げたものであり、正しく最高峰の防護性能を持つ。


 その結界の強度は、王国最高の防護性能を誇る王宮と同等とまで言われており、上級魔法を受けようと傷一つ、綻び一つ出来ない強固なもの。


 それを単身で掌握して見せるアンネゲルトは、正しく天才。


 しかし、ダンジョンとなると話が変わって来る。


 ダンジョンが生まれた経緯は諸説あるが、少なくとも神の類、圧倒的な上位者が創造したものとされている。


 聖竜国では、その説に因んで《神の箱庭ダンジョン》なんて呼ばれている。


 事実として、魔物が無尽蔵に生まれ続ける亜空間に繋がる穴など、大凡人間に生み出せる代物ではない。


 そんな人の技術を超越した先にあるダンジョンを、掌握して乗っ取る——そんなもの、神の御業に他ならない。


 アンネゲルト——どうやら彼女は、リルカが思っていた以上に人外じみた傑物らしい。


 怪物揃いの四天王の中では比較的常識人に近しい立ち位置かと思いきや、とんでもない。


 彼女は或いは、ローファスに並ぶ程の——


 ダンジョンの掌握——ふとリルカは、自分にも同じ事が出来るだろうかと考え、即座にかぶりを振る。


 無理だ。


 ダンジョンをダンジョンたらしめる術式の仕組みを知り、尚且つ膨大な魔力が無ければ。


 しかし逆に言えば、魔力と知識、技術さえあれば——


「んー、理屈的には、仕組みさえ分かれば出来なくはないのか…でも彼女の魔力はそれ程多くはない筈、一体どうやって…」


 リルカの呟きを聞いたヴァルムとオーガスが顔を見合わせた。


「おいヴァルム。このちんまいの、確かローファスの女だったよな。ダンジョンの乗っ取りが出来なくは無いってよ。こいつも大概おかしいぜ」


「ローファスやアンネゲルトと魔法の話が出来る奴だぞ。まともな訳ないだろう」


 あんまりな言われ様に、リルカは思わず振り返る。


「ひっどい風評被害!? 私は全然普通、一般人だから! 大体、怪物代表みたいな君達に言われたくないんだけど!?」


 リルカの言葉を受け、オーガスは顔を顰める。


「怪物代表だぁ? ひでぇ言われ様だな」


「この筋肉達磨と一緒にされるのは心外だ。俺は充分人間の範疇だぞ」


 額に青筋を立てたオーガスが殴り掛かり、ヴァルムはそれを躱す。


「何でテメェにまで人外扱いされなきゃなんねぇんだ!」


「魔力強化も無しに素で槍を通さん肉体を持つ奴が今更何を言っている。知らなかったのなら教えてやる、お前は人間ではない」


「テメェも大概だろうがヴァルム!」


 ぶんぶんと空気を切りながら振るわれる拳を、ヴァルムはひょいひょいと容易く避ける。


「あー…ほら、喧嘩しないでー」


 突如男二人で始まった喧嘩、もといじゃれ合いを宥めるリルカ。


 かつての四天王二人が飛空艇うちで喧嘩してるよ、と何とも言えない表情をする——かつての四天王ローファスの愛人リルカ。


 人生何が起きるか分からないな、なんて思っていると、拡声器よりシギルの声が響く。


『——前方にも敵さん出現だ。ヤベェな、挟まれちまったぞオイ』


 高速で飛行する飛空艇を、しつこいくらいに追跡してくる無数の円盤。


 かと思えば、挟み撃ちでもするかの様に前方にも円盤が現れたという。


『方向転換するか?』


「いや、今時間のロスは拙い。魔法で撃墜するから突っ切って」


 言うや否や、リルカは魔法陣を展開する。


 円盤は高い機動力を持つ為、単発の魔法では躱される。


 故にリルカが発動する魔法は、躱し切れない程の膨大な手数の魔法。


 しかしここで、ヴァルムから待ったが入る。


「ここは俺がやろう。リルカ…だったな。お前にはこの後・・・がある。魔力は温存しておけ」


 返事を聞くよりも先に、ヴァルムは雷の槍を生み出すと振り被り——未だに遠く小さく見える前方の何機かの円盤に向けて投擲した。


 雷の槍は目にも止まらぬ速度で円盤の一つを貫くと、そこを起点として無数の稲妻が降り注いだ。


 確認するまでもなく、前方の円盤編隊は全滅である。


「…帝国の兵器には雷属性が有効って話だけど、にしても凄いね。ありがと、ヴァルム」


 呆気に取られつつも、笑顔で礼を言うリルカ。


 しかしヴァルム、そしてオーガスはじっと前方を見据えていた。


「…テメェがしくじるなんて珍しいじゃねぇか、ヴァルム」


「当たりはしたが…タフなのがいるな」


 さらに舞い上がった爆煙の中から、一機の黒く焦げた円盤が飛び出した。


 その円盤は、飛空艇に向けて一直線に突き進む。


 円盤に乗るその男を視認したリルカは、目を剥いて舌を打つ。


「アイツは…!」


 リルカは迎撃するべく一筋の風の刃を放つ。


 リルカの魔法は見事命中し、円盤は真っ二つとなり落下する。


 しかしそこには既に、搭乗する者の姿は無かった。


 少し遅れて両断された円盤は爆発し、そこを飛空艇が突っ切る——同時、一人の男が甲板の上に降り立った。


 左眼を縦断する縫い傷の目立つ凶暴そうな男——上級兵リンドウ。


 リンドウはその視線を、ヴァルム、オーガス、リルカとそれぞれ向け、ニィっと口角を吊り上げる。


「“特級”、“特級”——そっちの小娘は“一級”か。んだよ王国、反撃に全力注ぎ過ぎじゃん。全面戦争ですかぁ?」


 リンドウは自身のどす黒い血液で回転刃チェーンソーの大剣を作り出すと、凄まじい回転音を響かせる。


「リンドウ…! また厄介な奴が…!」


 上級兵——《狂犬》リンドウ。


 原作三部、錬金帝国編においてアベルらの前に立ちはだかった、帝国軍の主力たる上級兵の中でも一際高い実力を持つ男。


「あん? 何で俺の名前…昨夜の襲撃じゃそんなに活躍出来なかった筈だが、実は俺ちゃんって有名人?」


 言いながらリンドウは、回転刃チェーンソーの大剣を構えてリルカに向けて突進する。


 その回転する刃を、雷の槍が止めた。


「…あー何、女の子の前でカッコつけちゃう系男子? イイねぇ、マジ色男だわ、チリチリパッキンのお兄ちゃん」


「…よく喋るな、帝国兵」


 やや億劫そうなヴァルム——その背後に、巨岩の如き影が立つ。


「——リンドウつったか? なら、そいつは俺の担当・・だろ。退け、ヴァルム」


 オーガスは好戦的に笑い、巨木の如き腕を振り上げ——ヴァルムが居るにも関わらず、構わず振り下ろした。


 ヴァルムは突然の味方からの容赦無い攻撃に驚いた様に顔を青くしつつ、オーガスの豪腕を寸前で何とか避ける。


 ギリギリで何とか躱せたが、癖っ毛の髪先が吹き飛んだ。


 しかし不意打ちされる形となったヴァルムとは違い、当のリンドウにはオーガスの姿が見えていた事もあり、拳の範囲外にさっと身を引く事でオーガスの一撃を容易く躱して見せる。


 が、その直後、リンドウは凄まじい風圧をその身に受け、飛空艇の外へ投げ出された。


「——は?」


 何が起きた、と状況への理解が追い付かないリンドウ。


 拳を振るう、それだけで人一人を吹き飛ばす程の暴風を起こしたというのか。


 常識外れ、あまりにも馬鹿げた膂力、怪力。


 リンドウの脳裏に、近しい事が出来そうな同僚の顔が思い浮かぶ。


 レイモンド討伐に編成された上級兵の一人、大砲の頭を持つ戦車の如き大柄な機人——ホウセン。


「ホウセン並の怪力…? しかも生身で——マジかよ…」


 吹き飛ばされて宙を舞いながらに呟くリンドウ。


 オーガスはそんなリンドウを狙いでも定める様に見据え、甲板を蹴った。


 その反動に飛空艇が大きく揺れ、オーガスはリンドウの元まで一瞬で跳躍して見せる。


 リンドウの目の前には、拳を振り上げたオーガスの姿があった。


「…! オイオイ、バケモンかよ…」


「テメェ、ちったあやる・・らしいじゃねぇか。なら、この程度じゃ死なねぇよなぁ?」


 オーガスの拳が振り抜かれ、リンドウはそれを両手を交差クロスして防ぐ——しかし次の瞬間、リンドウの両腕は吹き飛び、拳は鳩尾に突き刺さった。


「——がぁ…!?」


 リンドウは凄まじい速度で急降下し、廃墟の一角に叩き付けられた。


 オーガスは眉を顰める。


「…? 厄介っつう話じゃなかったか? 流石に、こんなもんな訳ねぇよな」


 オーガスは首を傾げつつ、止めを刺すべく、リンドウの後を追って一人降下した。


 飛空艇の甲板に残されたヴァルムとリルカの二人は、チラリと地上を見下し、過ぎ去って行く半壊した廃墟を眺める。


 沈黙の末、ヴァルムが居た堪れ無い様子で口を開いた。


「…すまんな。ああいう奴なんだ。まあ、一応作戦通り・・・・ではある」


「そう、だね…まさかこんな所でリンドウが来るとは思わなかったけど。でもあのリンドウがこんな一方的に…分かってはいたけど、オーガス強っ」


 リルカは唖然とした様子で、地上を眺めていた。



 フォルとカルデラは、ローファスの後を追う形で中央都市への道を駆けていた。


 廃墟の立ち並ぶゴーストタウンや、ひび割れ破損したまま整備されていないアスファルトの道。


 中には倒壊した廃ビルなどもあり、それは決してまともな道ではない。


 ともあれ、魔力を有する身体能力が高い二人からすれば、進む事自体は難しい事では無い。


 しかし飛空艇の侵入により、帝国軍はそれの対応をするべく慌しく動いている。


 空を無数の円盤が頻繁に飛び交い、まるで地上に潜む侵入者を探すかの様に慌しく巡回している。


 一度相手にしたら最後、大量の援軍を呼ばれる事は目に見えている為、フォル達は出来る限り目立たぬ様、廃ビルの影やトンネルを通って隠れながら中央都市に向かっていた。


 フォルは中央都市までの具体的な道筋を知らず、カルデラも知識として直線上の距離程度しか分からない。


 ただ一つ分かる事は、距離的にも今のペースでは今日中には辿り着けない事。


 しかしこのゴーストタウンの入り組んだ道さえ抜けてしまえばその限りでは無い。


 フォルとカルデラの一先ずの短期目標は、多少時間が掛かろうとこのゴーストタウンを帝国兵に見つからずに抜ける事。


 市街地にさえ入ってしまえば、整備された道を駆け抜けるのみ。


 魔力で底上げされた脚力ならば、帝国兵であっても早々追い付かれる事は無く、円盤も流石に住民がいる街を大々的に攻撃は出来ないであろう。


 このコンクリートのジャングルと化したゴーストタウンも、後僅か。


 今通っている崩れかけた瓦礫の影を抜けてしまえば——という所で、カルデラは高速で急接近して来る気配に気付いた。


「フォル様! ご注意を!」


 フォルに注意を呼び掛けつつ、カルデラは剣の柄に手を掛ける。


 直後、光学迷彩を解いて突如として現れた三度笠の異形がカルデラの首筋目掛けて居合を抜き放った。


 激突し、響き渡る金属音。


 カルデラの頰に、切り傷が出来ていた。


「——カーラ!」


「大丈夫です。本当に、大丈夫ですから」


 フォルを安心させる様に笑顔を見せるカルデラだが、その額には冷や汗が浮かんでいた。


 今の剣、カルデラの目でもってしても見えなかった。


 速いなんてものではない、明らかに人が出せる限界を超えている。


 今ギリギリで防げたのも、カルデラの長年の経験があってのもの。


 カルデラはじっと、目の前に静かに佇む三度笠の異形を見据える。


「フォル様、先に行って下さい」


 カルデラの言葉を聞いたフォルは、目を見張って拒否する。


「駄目だ。一緒にやる。コイツは明らかにヤバい」


 フォルからして、カルデラが傷を負うのを見たのはこれが初めての事。


 王都襲撃の折、神獣さえ無傷で仕留めたというのに。


 それだけでも、目の前のこの人外がどれだけ危険かは察せられるというもの。


 しかしカルデラは首を横に振る。


「…ですので——行って下さいと申しております」


「カーラ…」


 カルデラは、いつになくきつい口調でフォルを拒絶する。


 カルデラは言外にこう言っている——フォルがいては邪魔になる、と。


 フォルもそれを理解は出来るが、だからカルデラを置いて行こうとは思えない。


 そんな仲間を見捨てる様な真似は、フォルには出来ない。


 と、そんな折、別の方向より飛来する殺気をカルデラは察知する。


「——フォル様!」


 カルデラが剣を抜こうとした瞬間、フォルの背後に水の上位精霊ルーナマールが姿を現し、飛来した凶弾を水の障壁で止めた。


「——!? これは…鉄の礫?」


「新手です!」


 カルデラがいつに無く焦った様子でフォルの前に出る。


 口角を上げて一部始終を静観するかの様な三度笠の異形、そして視認出来ない位置にいる新手の敵。


 そのいずれにも最大限の警戒と注意を向けるカルデラ。


 或いはこれは——今となってはひさしい、己の手に余る感覚。


 三度笠一人相手でも危険だというのに、ここに来てもう一人。


 これではフォルを守れないと、カルデラはいつになく余裕を欠いていた。


 そんなカルデラの背を、フォルは力一杯に叩いた——ゴーストタウンに音が響き渡る程に。


「——!?」


 冷や水でも浴びせられたかの様に目を丸くするカルデラに、フォルは舶刀カットラスを抜き、その切先を鉄礫が飛んできた方へ向けた。


「アタシがあっち・・・、カーラはそいつ・・・。先に相手を倒した方が、もう片方に加勢する——それで良いな?」


 カルデラはきょとんと目を丸くする。


 いつまでも守られているつもりはない、そう言われた様な気がして、カルデラは静かに息を吐いた。


「——はい」


 そしてカルデラの口から出たのは肯定の言葉。


 同時、フォルは背を向けて駆け出した。


 その背から感じる厚い信頼を噛み締めながら、カルデラは三度笠の異形——ヒガンに向き直る。


「…待って頂けたのですか? 見た目に合わず紳士なんですね」


 ヒガンは三度笠に隠れる口を狂気に歪ませながら、居合の構えを取る。


『我が望むは強者との死闘——迷いある者を斬り捨てるのは、容易くはあるがつまらんのでな』


「戦闘狂の方でしたか…紳士と言ったのは取り消します」


 言いながらカルデラも剣の柄に手を掛けた。


『ついでに、もう一つ憂を晴らしてやろう。もう一人の女の事ならば、心配せずとも十中八九死にはせん』


「…何故、そう言い切れるのです?」


『先の狙撃はマゴロクという男のものでな。腕は良いが、女子供を手に掛ける事を嫌っておる故』


「その割には、先程の弾は殺意が高かった様に思えますが」


『それは本人に直接聞いてみねば分からぬが…恐らくは、障壁で防がれる事を前提に撃っておるのだろうよ』


「…そう、ですか」


 確かにこの辺は、本人に聞いて見なければ分からない。


 同時にこの三度笠の異形の言葉が真実である確証もありはしない訳だが。


 カルデラは首を傾げる。


「では、最後にもう一点質問を」


『申してみよ』


「何故、ここまでペラペラと話されているのです? 明確な敵である私に対して」


『あぁ、それは——貴殿の雑念を払う為だ』


「雑念?」


『然り。迷いは剣を鈍らせる。名刀すら、なまくらに堕とす程にな。貴殿は先程、我が秘剣を受けた——紛う事無き強者だ』


 ヒガンは姿勢を低くし、居合の構えをより深くする。


『帝国陸軍特殊部隊武錆むささび上級兵——《剣鬼》ヒガン。これより、貴殿を殺す者だ』


 名乗りを上げた直後、ヒガンは視認不可の速過ぎる居合を放った。


 その居合抜きは——カルデラの剣により受けられていた。


 鍔迫り合いの最中、カルデラは決してフォルには見せぬ、恐ろしく冷たく鋭い目でヒガンを睨み、口を開く。


「王国ライトレス家直属暗黒騎士第三席——《天剣》カルデラ。お前を殺した・・者の名だ。地獄の底でも覚えていろ」


 両者の間に、凄まじい剣戟が響き渡った。

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