第3話 皇子の婚約者と私の婚約者


 その後も、和やかな淑女の戦いは続きましたが、良きところでお開きとなりました。



 因みに私はお茶会で、[可もなく不可もなく]を目指しました。家紋に泥を塗らず、失礼にならないように手を抜くこともせず、良い塩梅の対応を心がけました。




 帰りの道すがら、本日の成果について、父から根掘り葉掘り聞かれました。


「お父様。今日は、私が持てる精一杯を、出し切りましたの。ですので、結果をお待ちくださいませ。」

と、回答しました。



すると父は大喜びで、

「アメリーが全力を出せたのならば、きっと婚約者になれるだろう!今夜は祝杯だ!!」と、小躍りしながら大喜びしておりました。


 嘘は申しておりませんし。何の問題もありません。





 数日後、新聞にて婚約者がフィルミーナ・デル・アックンヤークン公爵令嬢に内定したと、報道されました。



 この時、第一皇子殿下のお名前が、カイル殿下なのだと初めて認識致しました。

 どれだけ興味がなかったのかと、自分自身に少し戸惑いを覚えました。



 朝、食卓にて記事を見たお父様は、半狂乱になり、

「何かの間違いだ!抗議に行ってくる!」

と、すぐさま家を飛び出してしまう勢いでした。



「お父様。申し訳御座いません。私、頑張ったのですが、力及ばずで…。」


 と、女優顔負けの演技力で、父に泣き付きました。


「おぉ!泣かないでおくれ!アメリーよ!!お前が悪いわけではない!問題は見る目のない皇子と皇妃だ。そして、父の政戦が及ばなかったのが原因だ。アックンヤークンめ、きっと卑怯な手を使ったに違いない!」



「いいえ、お父様。私の力が及ばなかったのですわ。皇子様の婚約者になることは叶いませんでしたが、今後はもっと精進して参りますわ。不甲斐ない娘でごめんなさいお父様。」



「アメリーよ!案ずるでない!父がもっと良い嫁ぎ先を、必ず見つけて来よう!心配するでない!この国を掌握するのは我々だ!未来は明るいぞ我が娘よ!」



「はい。お父様。」



 そして、今後の計画を練るべく、早速父は何処かへ行ってしまいました。




 黙ってニコニコと話を聞いていた母が、声をかけてくる。

「ところで、アメリーちゃん。皇子様は好みじゃなかったの?」


 どうやら母には、全てお見通しであったようです。


「ええ。お母様。私には勿体無さ過ぎる、お人でしたわ。」



「あらあら。なら、仕方ないわね。」と、優雅にお茶を飲まれた。

「気が変わったら、いつでもお母様に教えて頂戴ね?」


「はいお母様。」



 こうして私は無事に、皇子殿下の婚約者選定に脱落致しました。


 

……………………………




 

 無事に皇子様の婚約者とならなかった私は、淑女教育は継続しながらも、穏やかな日々を過ごしておりました。

 

 


 そんなある日、お父様が

「喜べアメリー!国を掌握する縁談を、この父が持ってきたぞ!」

と、賑やかにご帰宅されました。



「まぁ。流石は私の旦那様。どこのどなたですの?」

 お母様がニコニコと、しかし、怪訝そうに確認されました。




「私は考えたのだ!政治は会議室で動くと!つまり、会議の最高権力者こそ最強なのだ。よって、現・宰相閣下ミーガン侯爵の御子息ウィリアム・デール・ミーガン殿との縁談を、打診したのだ!」




 なるほど。確かに、宰相閣下であれば、国を動かしていらっしゃいます。



 それに父は多分考えておりませんが、財務を司る我が家との相性は抜群でしょう。



 本当に国を掌握することも、事実上可能です。



 母も疑問に思われたようで、

「まぁ!流石は旦那様だわ!でも、宰相閣下の御子息との縁談は、陛下の許可が降りるのかしら?」




「安心しろ我が愛しの妻よ!私に不覚はないのだ!既に許可をもぎ取ってきておる。さぁ来週早速、顔合わせだ!皆一丸となって準備するのだ!ハハハハハハハ!」

と、高笑いしながら立ち去る父。



「アメリーちゃん。どうやら、来週我が家で顔合わせのようね。楽しみね。準備なさいね。それにしても、流石は私の旦那様だわ。今日も本当に可愛いわ。」

 と、母は恍惚としながら、父の後を追って行きました。



 残された私は、一抹の不安を覚えたものの、とりあえず今出来ることをしよう。と、準備を進めることにしました。




………………………………………




 両家顔合わせ当日。


 結果から言うと、無事に婚約は締結されました。


 このときより、私の婚約者はウィル(ウィリアムの愛称)となりました。


 ウィルは、皇子殿下とは違う方向の端正な顔立ちでした。穏やかな方のようで、薄く微笑みを浮かべておりました。



 宰相閣下としても我が家との婚姻は、願ったり叶ったりだったようで、その場で婚約締結となりました。



 家同士で結ぶ婚約に、当人同士の意思は必要ではありません。



 婚約に関する取り決めを、親同士で話し合う間、ウィルに我が家の庭園を案内しました。その際に、お互い自己紹介を交わしました。



 私がウィルと、ウィルがアメリーと呼び合うと決め、これからよろしくお願いします。と、お互いに事務的なやり取りを致しました。



 初対面でしたが、口数が多くなく、穏やかな雰囲気のウィルのことを、私は好ましく思いました。ですので、ウィルと婚約出来たことを、とても嬉しく思いました。



 また同時に、婚約を結んだことで、今後皇子妃にならなくて良いことも、嬉しかったのです。




 婚約を結んだ後の、私とウィルは定期的に会ったり、手紙のやり取りをしたり、贈り物をしたりと、幼い頃から仲良く過ごしておりました。


 私の話を、ウィルが優しく聞いてくれる。

それだけでも、とても嬉しく、幸せに感じておりました。



 私は、ウィルのことを、大変好ましく思っておりました。

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