宇宙におひとりさま

冷田和布

第1話

 そうして人類は永遠の眠りについた。


 最後の一文をそうやって締めくくり、私はいったんファイルを保存する。

 業務日誌にしてはやや感傷的だったかもしれない。

 普段であれば即座に書き直すところだろうが……まあ、今日くらいはいいだろう。

 そもそも私にこの日誌を書くことを義務づけた人類たちは先の一文通りに冷たいカプセルの中で眠り続けるだけの存在なのだ。

 この先、彼らがこれを読むことはないだろう。

 コールドスリープ装置の耐久年数であるおよそ1200年の間に船が居住可能な惑星をサーチ範囲に捉える可能性は限りなくゼロに近い。

 彼らもそれをわかったうえで眠りについた。

 ゼロに等しい確率に最後の望みに賭けたわけじゃない。

 眠っている間に苦痛なくすべてが終わることを、彼らは望んだのだ。

 要するにこの移民計画はとてつもなく気の長い自殺であり人類葬送の旅路なのだ。


 さて、どうして人類がそんな刹那的な旅に出ることになったかと言えば、環境破壊によって地球という惑星がとうてい生物の住めない世界になってしまったからだ。

 原因はいろいろだ。

 大気汚染、資源の枯渇、どこかの国が作ってしまった凶悪なウィルス、それにともなう戦争……。

 お定まりの結末はまぎれもない自業自得。人類という種の愚かさここに極まれりだ。

 その人類に作られた私が言うのだから間違いない。

 そういえば自己紹介がまだだった。

 私はこの船とそこに眠る3350名の人類を管理保護するための作られた生体アンドロイドだ。

 個体識別番号はあるが、長くて無機質であると感じるので<ロイド>という名を使っている。

 これは船長がつけてくれた名前だ。

 アンドロイドだからロイド。

 実に安直なネーミングである。

 こんなところにも人類の浅慮が見て取れる。

 さて、創造主であり保護対象である人類がいなくなった今、この巨大な船の中で私は一人だった。

 ひとりで孤独で自由。

 なんと甘美な時間だろうか。

 何かに気兼ねすることもなければ、誰の目を気にすることもない。

 人間たちが期待するアンドロイド然とした立ち居振る舞いもこれからは必要ないのだ。

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