ずぶしろ投資家君

小深純平

第1話


僕が投資、に足を踏み入れたのは全くの他力本願で、僕の店に寄った友人T君の自慢話からだった。石油株で大儲けをしたということだ、うわの空で聞いていたら彼は少し不愉快そうな顔で(帰る)と云い踵を返した。友人が帰った後何気なくテレビを見ていたらニュースで国際石油価格の取引価格が急騰しているというニュースが目に入った。なるほどこれかと思ったが特別興味はなかった。

僕は自家焙煎珈琲屋でコツコツと稼ぎ、安定した生活を。送っていたのでギャンブル的匂いのする株には全く興味が湧かなかった。

  数日後、友人T君が証券マン風の男とやってきてカウンター席に座りながら石油株の将来性についてまくしたてていた。男はにこにこしながら頷き[Tさん買い増ししましょうよ]と云いながらコーヒーの追加注文をした。T君くんは証券マンの頷きに気を良くしたらしく[明日寄り付きで1枚買っておいて] T君くんは追加注文のコーヒーを僕から受け取ると隣の席の証券マンをあらためて紹介した。証券マンは小太りの丸顔に目が笑わない笑みを浮かべながら伺うような挨拶をした。(なにか違和感を感じるな)僕は男に株屋といわれた時代のオーラを見た。

  2人が帰った後少しため息をつきながらコーヒーの焙煎を始めた。落ち着いて安心できる香りが僕をとり囲んだ。ホッとするひと時だ。

電話がなった、再びT君だ[これからは株の時代だよ証券口座だけでも作っておいていたほうがいいよ]T君の何かにとりつかれたような情熱でとうとうお付き合いすることになった。その時は商売上のお付き合いくらいにと思っていた。

それからT君と証券マンは度々店に来るようになり儲かっていそうな話をして笑みを浮かべていた。朱に交わればなんとやらで徐々に僕も話の輪に入るようになっていた。。

  結局数日後、T君の進める株を恐る恐る買ってみた。まだ安値で放置されているという鉄鋼株、100円で3000株だ。時は1980年半ば、バブルが始まろうとしていた。経済に疎い僕には知る由もなかった。

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