第45話 それぞれの結末・実行犯。
それぞれの結末・実行犯。
ステラ準男爵令嬢
そして、もう1人。忘れられた令嬢がいる。
脅されて、実際に毒を盛っていた、実行犯・ステラ嬢だ。
…彼女は生きている。
しかし、あの後、確かに彼女は、ステラは殺された。
今の彼女は名前を捨てて、身分を捨てて、ベルトハイド公爵家で下女として働いている。
彼女の新しい名前はラテ。
死を望んだ彼女に、ベルトハイドは生き続けるという罰を課した。
やっと世界から居なくなれる。
この碌でもない人生を終えられる。
そう、心の底から喜んだ彼女は、再び与えられた生に絶望した。
そして、彼女にも自死防止リングがつけられた。
泣いて叫んで絶望していた彼女だが、ベルトハイドの面々や使用人は、気にも留めず、彼女を社会から抹消し、死を偽装して、彼女に新しい名と、仕事を与えた。
もちろん、殺してしまう。という、選択肢もあった。
だが、それはしなかった。
理由の1つは、ベルトハイドが殺しを、あまり好まない事にあった。
彼等を楽しませるのはいつだって、生きている人間達であり、動かない肉の塊には、何の面白みもない。と、知っているからだ。
しかし今回、彼女が殺されなかった最大の理由は、別にあった。
何故なら、彼女だけはまだ、ベルトハイドに何の儲けも、齎(もたら)していなかったからだ。
爵位や領土を返還して、利益になった侯爵令嬢。
実家の情報と、彼女の両親を売りつける事で、利益になった男爵令嬢。
そして残されたのは、何の金にもならなかった、実行犯。ただの準男爵家の四女だった彼女(ステラ)だった。
▼△▼
彼女を売り飛ばす事も考えられた。
だが、大した金にはならないと判断された。
賢く立ち回られても、厄介だった。
それに、使い捨てるにしても、今じゃない。
だから、使用人として、雇用する事にした。
そうすれば監視も出来て、彼女の働きは、直接ベルトハイドの利益になる…。
▼△▼
もちろん彼女は、大罪を犯した犯罪者だ。
屋敷内での彼女の扱いは、良くはない。
けれど、彼女は、意外にも真面目に働いて、ベルトハイドの為に尽くしているらしい。
彼女はベルトハイドに殺される事で、命を救われた上に、名前と身分を失って、ステラは何処にも居なくなった。
その結果、彼女は名前と共に、家族と過去を失った。
もちろん彼女の記憶が消えるわけではないが、彼女はベルトハイドのおかげで、彼女に不幸を齎し続けた家族を、辛かった過去を、いとも簡単に捨てられた。
だから、彼女自身は少しも望んではいなかったが、実質的に、2度もベルトハイドに救われてしまったのだ。
賢い彼女は、絶望する事に疲れて、理性的になると、すぐにその事実に気がついた。
結果、彼女はどんなにひどい扱いを受けたとしても、自分がしてしまった事を思えば、当然だと受け入れられた。
それに、この屋敷でラテとして生きることで、ステラの頃には無かった、人間としての最低限の尊厳を、生まれて初めて実感していた。
だから彼女は、勝手にベルトハイドに感謝をし、崇拝し、ベルトハイドの為に、毎日身を粉にして働いている。
それに、彼女は理解したのだ。
彼女はベルトハイドのせいで一度死んで、ベルトハイドのおかげで、ようやく彼女自身の人生を歩み出しているのだと。
だから、彼女は今日も、崇拝するベルトハイドの為に、自分に出来ることを懸命にこなしている。
そして、もし機会があるのなら、この身を賭してでもベルトハイドのお役に立ちたい…等と、ただの下女・ラテは、意図せずにベルトハイドの使用人らしい心構えを、順調に育んでいる。
それが、語られない彼女の、語られない物語であった。
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