第39話 逃避する首謀者。 ☆公爵夫人☆




王位奪取計画・終章

首謀者・リリアナ・セラーズ侯爵令嬢の場合

公爵夫人視点





 裏で指示を出していた彼女は、決して証拠は見つからない。と、強気だったが、別室に控えていた王妃を見た瞬間に、膝から崩れ落ちた。



 全てが見破られていて、何もかもが無駄だったのだと、気が付いてしまったのだ。



 王妃まで呼び出して"間違いでした"は、通らない。



 だから最初から、犯人は彼女だと確定している。と、理解したのだろう。




 負けを悟った彼女は、王妃の足元に綴り付き「お許しを…お許しを!!」と、叫ぶように許しを乞うた。




 王妃様は、そんな彼女を見て、緩りと微笑んだ。


 その表情に希望を見出した彼女は、目を輝かせた。





 けれど、忘れてはいけない。

 嫁に行ったとは言え、王妃様は生粋のベルトハイドだ。




 王妃様がゆっくりと綺麗な唇を開く。


「そろそろ、口を閉じなさい?…こんな事をしたのだから、どんな子が出て来るのか、期待していたのだけれど…顔が少し可愛いだけね?…残念だわ」



 美しい笑顔と甘やかな声で、残酷な失望が伝えられる。



「っ!!!」




「…あらあら可哀想に。振られてしまったわね。


 だから、言ったでしょ?

 貴女が何と言おうと、構わないのよ?


 侯爵令嬢である貴女が疑われて、そしてここに呼び出された…。その意味を、早く理解して頂戴?」




 傷付いた彼女のために、殊更優しく、囁いた。




 すると限界を迎えたのか、リリアナ嬢は叫び出した。



「ウアァアアア!!イヤァアアアア!!!!嫌よぉっ!!!!なんで!!!リリの何がいけないのよ!?!?好きな人の為に!愛する人の為にっ!!美しき恋っ!愛の為にやったのに!!何で私が責められるのよぉおお!!!おかしいわぁあっ!!!!私は悪くないっ!!!!」



 リリアナ嬢は、ひとしきり騒いだ後に、急に疼くまり、静かになった。


 そして、再び静かにブツブツと呟きだした。



「…そうよっ…アレクシス殿下に聞いてもらわなくちゃ!!…リリが殿下の為に!殿下の代わりに!どんなに頑張ったのかをっ!!!殿下はきっと褒めてくれるわ!そして、私の事を愛してくれるわ!!私は殿下の代わりに頑張ったんだもの!!優しく許してくれるはずだわ!!!」




 生まれてから、誰にも怒られたり、責められたりした事の無いであろうリリアナ嬢は、人生で初めて、己の罪を追求された事で、精神が限界だったのか、薄ら笑いすら浮かべていた。




 他者の為に、愛の為に、行動した自分は悪く無い。


 王子様(アレクシス)が助けてくれて、きっと優しく許してもらえる。


 極限まで追い詰められた事で、彼女の嘘で塗り固められた仮面は、ようやく剥がれ落ち、本心が赤裸々に露呈した。


 彼女の発言を、黙って聞いていた王妃様は、目を細め、笑みを浮かべ、再度言葉を紡ぐ。




「…まぁ、最近の若者って怖いのねぇ…。


 貴女がそんな事を口にすると、アレクシスに責任追求をせざるを得なくなるのが、わからないのかしら?」




「…えっ…?」




 令嬢は泣き叫んでボロボロな様子のまま、ポカンと口を開けて呆けていた。




「…はぁ。折角だから、教えてあげるわ。まずは…そうね。貴女が起こした、このお粗末な事件には、どんな名前がつくと思う?」




「……?」




「あら、わからない?…なら、教えてあげる。


 貴女が愛する男の為に起こした事件は、"王族毒殺未遂事件"とでも、呼ばれるでしょうね。


 …貴女の愛って……とっても罪深いのね?」




「なっ!!!?そんなっ!!」




「貴女はお遊びのつもりだったのかしら?

 それなら残念ね…。これが事実であり、現実よ?


 …そして今、首謀者である貴女は、"王族毒殺未遂事件"に、第一王子であるアレクシスが関与している事を仄めかした…。まぁ、妥当ね。動機も十分だわ」




「!!!…う、うそっ…」




「…貴女には感謝しなければならないわね?

 なんせ、アレクシスを、合法的に排除出来るんですもの。


 貴女の言うように、アレクシスは泣いて喜ぶかもしれないわね……貴女のおかげだと」




「ッ!!イヤァアアアアァアア!!!!!」



 令嬢は艶やかな髪を振り乱し、頭を抱え叫び出した。





「……ハァ。煩い」


「話は終わった。さっさと摘み出してちょうだい?」




 王妃様の言葉で、控えていた騎士達が、令嬢を連行する。


 そして、連行する際に、絶望の中で命を絶ち、現実から逃出す事の無いように、自死防止のリングを付ける。




 彼女は、王妃の言葉で追い詰められて、ようやく自分の犯した罪を自覚した。


 罪を自覚した彼女をこれから襲う、不安や、焦燥、絶望は、相当な苦しみであろう…。


 けれど、今後彼女に訪れるであろう、後悔と苦しみから、自死を選んで逃げ出す事すら、彼女には許されなかった。




▼△▼



 部屋が静かになったところで、王妃様が気を緩める。



「はぁ…本当、嫌になるわ。直接この手で、絞め殺してやりたいのに…。自由に動けないのが、この身分の1番の欠点ね…。…後は良いように処理してね…義妹(いもうと)ちゃん?」



「かしこまりました。良いように…処理させて頂きますわ…お義姉(ねえ)さま」



 そうして、他の貴族達の目に入らないよう、女神を王宮へと送り返す。



 女神が無事に、隠し扉から秘密裏に帰られた事を確認し、広間で待つ貴族達の元へと向かう。





▼△▼



 広間に戻ると、応接用の椅子と机、茶菓子が使用人によって用意され、残されていた貴族達は、完璧なもてなしを受けていた。



 腹を満たし、時間が経てば、怒りは自然と収まる。人間は長時間、怒りの感情に身を任す事は出来ないからだ。案の定、貴族達の間には先ほどよりも、だいぶ穏やかな空気が蔓延していた。




「皆様…お待たせ致しました。


 残念ながら、彼女は疑わしいだけで、指示をしていないのかもしれません…。


 まだ、詳細を把握しきれておりませんので、この件は一旦、ベルトハイド預かりとして、引き続き調査を継続させて頂きますわ…。


 ですので、申し訳ありませんが、本日の所は、一度このまま、お引き取りくださいませ…。


 折角、お集まり頂いたのに…ごめんあそばせ?」




「ええ!わかりました夫人!」


「懲らしめてやってください!」


「そうですわ!許せませんもの!」




「ええ。皆様のお気持ち…私、しかと理解しておりますわ。ですので、慎重に対応させて頂きます。ご安心くださいませ。…それでは、またお会いしましょう?ご機嫌よう」



 そう述べて、夫人は優雅に移動する。




 貴族達の見送りは、使用人に任せる。




 そして、別室で待っているであろう、セラーズ侯爵夫妻の元へと、向かったのであった。

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