かぷーん。余程人間とは云えぬ者、

満梛 陽焚

一、

 時は明治二十年代東京某所

 その日、朝から夏の雨がバンバンゴロゴロと降っては止んでの、どう見てもおかしな日であったんです。


 普通なら雷が危ないとか、雨に濡れちまうとかで大体の人が出掛けやしないんですが…出掛けちまったんです。

 どうもこう、そういう自制が効かないのが、もくまという男でございました。


 (あー、あの娘を見ると気分がよくなるなぁ、気持ちも身体も生きてるって思うんだよなぁ、どうにかこうにか上手いことならないものかなぁ…)


 とまあ、土砂降りのおんぼろ傘の道すがら、夢想にうつつを抜かしていたその時だった、突然にビシャー!っと体全体に何かがかかったんです。


 「うわー、なんだこりゃベトベトして気味が悪いぜまったく」


 もくまとしてはかかったのはいいのだが、だけどもどうもベトベトするのが気になって仕方ない。となると次にすることは決まって大体みんなと同じこと、手に付いた液体を恐る恐る鼻に近づけてくんくんと嗅いでみる。


 「う、クサっ、でもイヤな気はしないな、どれどれ…」


 なんとも変わった男でございまして、臭いなら嗅がなければいいものを、くんくんくんくんと、得体の知れぬ液体を犬の様に味わうように嗅いでしまう。


 そうして、暫く、くんくんと嗅いでから気が済みますと、今度は体に付いたベトベトが気持ち悪くなってきまして、ベトベトを洗い流したいなあ、そういう気持ちが自然と湧いてきて、もくまはこう思ったのです。

 

 (銭湯でも行くかな、出たら冷やでも飲むか…いやその前に飯食べて…)


 こういう飯だの酒だのの事を考えられるうちは、まだまだ心の内は平和でございますが…

 

 しかして、面白きかな世の中は!


 この後起こるは、大変化!一体全体摩訶不思議!もくまの体に何かが起こると来たもんだ!


 ですがですが、今は誰も知る由もないこと、なのでございます。

 

 始まりの第一話でこの短さとはけしからん、そんな声も聞こえてきそうですが、続きは又後日ということで、今日はこれくらいで失礼させて頂きます。

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