第52話:通り過ぎた思い出のひとつ。

昔、僕が理容美容専門学校に通ってる時の話・・・。

学校ですからね。

毎日学校に通ってると自然に友達ができるでしょ、男友達も女友達も・・・。


で、その中にジェンダーの子がいまして・・・。

その子は理容師じゃなく、美容師の卵でした、隣のクラスです。

昼休みとか美容の教室に入り浸ってましたね。

最初はね、興味本位。


美容師って職業柄かジェンダーの子もいたりするんです。


その子はしゃべり方も仕草も、歩き方まで女の子でした。

髪も長かったですし・・・。

当然と言えば当然・・・彼女は自分の中では女性だと自分を認識してる

わけですから。


最初は男性だって分からなくて、疑うことなく女性だと思ってました。

遠目でしか見てなかったですからね。


でも、付き合っているとやっぱり、ちょっとしたところで男なんだって思う、

部分が見えてくるんですよね。

それにしゃべるとね・・・声が女性より若干低い・・・どうしてもね。


まあそうだからと言って一度結ばれた友好関係が簡単に崩れるわけでも

ないですし・・・。


どうして、その子と仲良くなったかって言うと・・・その子、ギターがめちゃ

上手かったんです。

で、僕もギターに興味があった時期だったから弾き方とかテクニックを

その子に教えてもらうようになって、それで仲良くなったんです。


お互い会えるのは学校と、夜だけ、昼間はインターン生でしたから、学校から

帰ったら店での仕事が待ってますから。


だから夜に会って、公園でギターの練習してましたね。

まるで取り憑かれたみたいに。

兄からもらった安物のアコースティックギターを宝物みたいに大切に抱えてね。


その子といると本当に楽しかったんです。

話も面白かったし、自分がのギターの腕が上達していくことも。


その子のおかげで僕はギターが、どんどん上手くなっていった。

で、待望の新しいギターも買いました。

ヤイリのマーチンってギターで20万したのかな。

いいギターを手に入れると不思議なもので、これが一気に上手くなるんです。


だからいいものを持ちなさいって言われる意味がその時よく分かりました。


趣味が合うってこともあって、当時はその子が一番仲が良かったかな。

仲がいいという意外、ふたりの間で何かがあったわけじゃないんですよ。


見た目は女の子ですからね、ドキッとさせられることもありましたけど

僕の恋愛対象はあくまで女性ですから・・・男性じゃなくて。


って言うと、これまた奇妙なことになるんです。


その子は見た目は女性なんだから、僕の恋愛対象になるわけです。

しかも本人からしてみれば内面も女性ですからね。

男の存在はどこにもないんです。


僕は恋愛に性別は関係ないって考えの男なので、好きになった人がすべて

だと思ってるんです。

それが誰であっても・・・動物であっても。


男と女を超えた関係が築けたらそれが最高の理想。

でも僕と彼女の友達関係は長くは続きませんでした。


結局、その子は美容師をやめてミュージシャンなるんだと言って

ギターと夢と希望を抱えて上京してっちゃったんです。


それで僕の恋は終わりました・・・恋なのかどうかは微妙ですけど。

ほんとに恋だったのかな・・・愛と言う感情とただの好きって感情を

混同してただけかもしれない・・・今もそれは分かりません。


その子とはそれ以来会ってないですけど、その後ミュージシャンに

なったという知らせも来なかったですし、テレビや雑誌でも見ることは

ありませんでした。


ミュージシャンになりたいって思ってる人なんて掃いて捨てるほど

いるでしょ?。

実力があってもチャンスに恵まれないとダメですからね。

その中でチャンスを掴む人ってどのくらいいるんでしょう。


小説の世界でも、それは同じだと思いますね。

まあ、それはいいです・・・考え出すとキリがないし憂鬱になるだけですから。


で、その子・・・今もどこでなにをしてるのか未だ消息不明。

だから、その子のことを思い出すと、とってもセンチメンタルな気分に

なるんです・・・なにか、とても大切なものを置き忘れて来たみたいに。

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