第5話 くろにゃんとしろにゃん

 だめにゃんがいなくなった日から、くろにゃんとしろにゃんは

前にもまして機械のように動いて、次から次へとタッタタッタと売りました。

その合間にどなる相手もいなくなって、お客の列はどんどん短くなっていきます。 


「わぁ雨だぁ」

お客が散ります。売り物のさかなもびしょぬれです。

いつのまにか空が暗くなって、海が深い緑色になって、

雨が葉っぱをたたきながら近づいてくるのを、くろにゃんは聞きのがしました。


「あっうちの子がいない、どこなの! おねがい、さがして!」

お客がさけびます。

「はぃつぎ、はぃつぎ」とお客をさかなのように、どんどんさばいているうちに

いつのまにか、お客の顔をみることを、しろにゃんは忘れていました。


 きょうもさかなは、あっというまにぜんぶ売れました。

売り上げのお金もぴたりと合いました。迷子になった子猫も見つかりました。

しかし、くろにゃんとしろにゃんは少しもうれしくありませんでした。

たがいの顔をみないで、なにも話さないで、肩でふぅふぅ息をしています。

タッタタッタと機械のように動いて、いつのまにか、話すことも笑うことも

忘れてしまったのです。

あしたになったら、息をすることも忘れてしまうかもしれません。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る