寄道する明日へ

ろくろわ

終わる今日


駅から徒歩10分。少し寂れた商店街の中にある1階が魚屋。その2階が私の部屋いえである。

相場より家賃が安いのは、きっと魚屋から漂う海の匂いと2階の壁の薄い、もう1部屋から聞こえる少しズレた鼻歌のお陰だろう。


思い返すと今日はいい日だった。


最終電車が過ぎた最寄の駅を出て家路に着く途中。

ふと、そんなことを思った。

帰りは最終電車だか、別に残業だったとか飲みに出掛けて遅くなったとかそんなわけではない。

定時を少し回った時間に業務を終えた後は、職場から少し離れたパチンコ屋に。久し振りに少ない投資で大当りをひき、閉店の少し前に終わった。

そこから、簡単お手軽牛丼を晩御飯で食べてそして。

そして、何をしていた訳でも無いのに気が付けば終電の時間となっていた。


…私は夜が深まっていくこの時間が好きだ。


人通りの少ない寂れた商店街は、私と同じ、終電で帰る人が通りすぎていくだけの足音と、数少ない飲食店が今日を終える片付けの音だけが響いている。


この時間が好きだから、私は最終電車に乗ったのかもしれない。

明日に向かって、準備をするための片付けをしている人を。音を。匂いを。見るのが聞くのが嗅ぐのが好きなのかもしれない。


……………………………………………………………


15分かけてたどり着いた部屋わがやの隣からは今日も海の香りと鼻歌が聞こえる。

眠ってしまうと来てしまう明日。

私は小さな冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、喉を潤すと隣のコンサートを楽しむ。


今日もズレてんだよ下手くそが。


明日を楽しむ今日よ。素敵な歌と共に乾杯。

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寄道する明日へ ろくろわ @sakiyomiroku

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