少年の愚行。もしくは少女による人間性の獲得

鍋谷葵

第1話

 淫靡なぬめらんとする水音は、黴臭い空き教室に響く。

 グラウンドで部活動を行うサッカー部員の快活な声と野球部員と監督の怒号とが混じり合った騒音は夕日に照らされ、青春の照りを纏いながら空気を振動させる。使われていないこの教室から見える風景を一枚写真にとれば、何らかのコンクールに提出すれば賞が取れるであろう。

 だがしかし、これは内から外を見た時に感じるノスタルジックな干渉に過ぎない。すなわち、外から内を見た時、空き教室の景色は風紀が乱れ切った遊楽として見えるのである。そして、今現在の立場は、風紀が保たれた善良な空間において行われる遊楽を観察するということなのだ。

 薄っすらとした埃が舞う中、二人の少年らは互いの体を重ね合っている。髪を明るく染めたしなやかな帰任肉を持つ長身のほっそりとした男は、かつてのスルタンが男娼に寵愛を与えるようにもう一人の少年のしなやかでほっそりとした腰を優しく掴みながら、さながら蛇の連続的な動きがごとく、滔々と腰を動かしている。後ろから不浄の穴を犯される少年は、脊髄より脳にかけて走る快楽的反応に任せ、小さく熱っぽい声を漏らす。長くのばされた白い少年の髪に、淫乱の汗がかかり、艶やかな色を演出する。

 灯籠の明かりのように揺らめく二人間の情欲は、行為によって果たされるものである。したがって、時間の経過とエクスタシーにより、終わりが告げるのである。少年らの行為の終わりも、夕暮れの陽が緋色になるころ終わりを告げた。

 一回の性行為を終えた少年らは、熱に溺れた息も絶え絶えの声にならない声を漏らし合う。ことにそれは犯されていた少年に如実に表れており、薄らと赤らみを帯びた臀部と陰部を晒しながら、かのヴィーナスが如くへたりと座り込む姿は淫らな印象を与える。

 相手の情欲をさらに煽り立てるような少年の言動に、筋肉質の少年は息を飲む。しかし、彼は既に精力を使い果たしたらしく、例え本能的な情が胸の奥より下半身に回ったとしても、血が巡ることは無かった。肉体的な限界を迎えている彼は、仕方がなくため息を吐くと、晒された下半身を学生ズボンで隠すと、甘くも酸い何とも言えない臭気を追い出すために窓を思いっきり開け放つ。

 心地よい秋風が、学内のソドムに入り込み、二人の少年に何とも言い難い涼しさを与える。また、この涼しさに加えて、少年らは先ほどの淫行による精神的な喪失感をひしひしと覚える。外と内が繋がった時、犯されていた少年もまたズボンを上げ、自らの恥部を隠すと、不浄の穴を愛おしく摩りながら未だ赤面する顔に微笑を浮かべる。

「藤野。ほら」

 自らの後ろに微笑みながら佇む藤野に、少年は財布より取り出した五千円札を差し出す。

「ありがと、桑原」

 五千円札を勢いよく掠め取ると、藤野は学生ズボンのポケットの中に突っ込んだ。そして、今度は本能的な笑みではなく、打算的な笑み、つまるところ自らの体を売ることによって利益を得られたという事実に対する喜びを示す笑みを浮かべた。

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