可愛い妹は俺のアレを抱き枕がわりにしてぐっすりと眠りたいそうです。そのに
「……
「えっ!? いま未祐がお兄ちゃんに飲ませたカプセルの色は!!」
「赤色のカプセルは精力絶倫になる薬だ……。本当にすまん!!」
ええええっ!? お兄ちゃんに飲ませたのは精力剤なのぉ……。
いったいお兄ちゃんの身体はどうなってしまうの!?
「ど、どうしよう。お兄ちゃんがもしも死んじゃったら大変!? 広瀬部長、命に別状はないんですよね……」
「薬のカプセルは個別に分けられていて処方箋があったはずだからちょっと待ってくれないか赤星……」
普段は沈着冷静な広瀬部長の顔にも焦りの色が浮かんでいた。部長は厚意で薬を渡してくれたんだ、先輩は悪くない、そう心の中では理解しているが大好きなお兄ちゃんのこととなるといてもたってもいられなくなる……。
「未祐ちゃん、落ち着いて!! まずは深呼吸だよ、こういうときには大きく息を吸って、吐いてぇ!! ほら、私の後に続いて」
親友の
「ち、千穂ちゃん、お、おっぱいがたゆんたゆんと揺れているんだけど!? まさか今日はブラを着けてないの!!」
「あ、着けるのをうっかり忘れて来ちゃった、てへっ♡」
てへぺろじゃないよ千穂ちゃん、さっきまでは上着のコートを羽織っていたから
全然気が付かなかったけど、そ、そのボリューミーなおっぱいが自由行動しちゃってるよぉ……。女の子の私でも目のやり場に困るたわわな美乳が薄手の白いセーター越しに青年の主張を繰り広げている!!
「期せずして童貞を殺すセーターになっちゃったね……。うふふ!!」
か、可愛いじゃないの、千穂ちゃん!! 食べちゃいたいくらい、私もまだ男の人とのお付き合いは未経験だけど、もしも未祐が男の子だったら鼻血を出して
「うむ、私が年下もいける口だったら森田、お前に今晩の
「ひ、広瀬部長っ!! 話がややこしくなります!! それに先輩はやっぱり女の子が恋愛対象なんですか!?」
あ、勢いで未祐、広瀬部長に脊椎反射的なツッコミを入れてしまった。言わなくてもいいことまで聞いて気を悪くしないかな?
「ああ、赤星、私は女性しか愛せないぞ、何故ならば生まれてこのかた私よりも強い男と出会ったことがないからだ。剣術でも勉学でもな……。もしも私を完膚なきまで打ち負かすような殿方が現れたらその限りではないかもしれんが、今はこのままで良いと考えているんだ」
一瞬、広瀬部長の表情に影が射したように見えたのは未祐の考え過ぎだろうか?
そのときの私にはまったく分かっていなかったが、広瀬部長も森田千穂ちゃんもお嬢様としての持てる者の深い悩みを抱えていることを知らなかった……。
*******
「赤星、森田。赤色のカプセルの処方箋が出て来たぞ。何々、服用した対象者を外気に触れさせた方が効き目は早くなるそうだ。ならば反対に身体を外気に触れさせなければ効き目は抑えられそうだ。不幸中の幸いだったのは滋養強壮剤の中でも子作りに特化した物ではないらしい……」
こ、子作りって!? また頭の中でお湯が沸いちゃうよぉ!!
「ということは、未祐ちゃんのお兄さんをこのわんこの着ぐるみの中に入れちゃえば万事オッケイじゃないのかな!! そうですよね広瀬部長」
「うむ森田、それは妙案だ!! 善は急げだ、さっそく行動に移すぞ!!」
「二人共、ちょっ、ちょっと待ってください。本当に大丈夫なんですか!? お兄ちゃんが着ぐるみの中で窒息なんかしませんよね……」
「大丈夫だよ、未祐ちゃん!! スーパーマーケットの店頭でもウチのお父さんは、このわんこの着ぐるみを着て一日中イベントを盛り上げているんだよ……」
「あれっ!? 間違ってたらごめんなさいだけど、千穂ちゃんのお父さんって、うなげやチェーンの社長じゃなかったの。着ぐるみの中に入るのは普通、一般の社員さんなんじゃないのかな?」
「うん!! 普通はそうだけど、ウチのお父さんはお忍びで着ぐるみの中に入って各店舗にミステリーショッパーの替わりに視察をするんだよ。まさか自分の会社の社長がわんこの着ぐるみの中に入っているとは夢にも思わないでしょう、だから現場の生の姿を理解することが出来るんだって……」
「な、何だか難しそうな単語がいっぱいで未祐あんまり分からないかも……」
「赤星、良く聞け。森田の父上があえて着ぐるみの中に入って視察をする意味は、あの有名な水戸の御老公が諸国漫遊をしながら庶民を苦しめる悪代官を懲らしめたのと同じだ……。ときには身分を隠したほうが見えてくる物も多いからな……」
「ええっ!? あの水戸黄門様と同じなんですか!! そうか、最初から偉い人が視察に来るって事前に分かっていたら、普段の仕事ぶりは見えてこないですね。未祐、何だかすっごく
「さすがに赤星は飲み込みが早いな。私が見込んだだけのことはあるぞ!!」
「そのとおりだよ、未祐ちゃん。でもね、お父さんは黄門様と違ってその場で身分を明かしたりしないそうよ。スーパーマーケットの現場ってすごく大変な仕事だから、それにお父さんは私にこう教えてくれたの。元々が現場のバイトから叩き上げで今の社長の地位まで到達出来たのは周りの人たちに助けられたからなんだって……」
そんなことが千穂ちゃんのお父さんにはあったんだな。だからあえてわんこの着ぐるみの中からフラットな目線で社員さんの仕事ぶりを視察しているんだ……。
千穂ちゃんの話を聞いて、何だかすっごくわんこの着ぐるみが愛おしく思えてしまった。
「さっ!! 積もる話は後にして、兄上を早く着ぐるみの中に入れるんだ。さもないと身体のある部分の
「えっ!? 広瀬部長!! 硬化っていったい何の話ですか……」
「むっ、そうかそうか、赤星はまだおぼこ娘だったな、これは失敬、不肖広瀬沙織、配慮という物がまだまだ足りんな。はっはっはっは!!」
「……おぼこむすめって何ですか?」
「未祐ちゃん!! まだシていない女の子のことだよぉ。未通女と書いておぼこなの。性感トンネルが貫通していない状態なんだ♡」
「森田、冗談に野暮な突っ込みで無粋だが、
赤星には地元に馴染みの深い東京湾アクアラインのトンネルと言ったほうが理解しやすいかもしれないな。あの偉業にもシールドマシーンと呼ばれる巨大な掘削機が使われているんだ。古今東西、穴があったら入りたいのは自然の摂理かもしれんな」
「広瀬部長ったら、えっちなんだから!! 千穂もおぼこ娘だから全然分かんないですぅ……」
あ、頭が痛くなってきた。いい加減に止めないと二人の茶番劇が終わらないよぉ!! 二人はアニメ同好会の活動でもこんな調子なんだ……。
「心配しなくて大丈夫だよ、未祐ちゃん。ちょっと私たちの冗談が過ぎてごめんね」
「そうだ、赤星。今回の失態の原因は私にある。だから責任を持って兄上を介助するから安心しろ。こう見えても救護の心得はある。女子校の体験授業で看護学校の研修に参加していたからな……」
……前言撤回する。
二人はやっぱり素敵な仲間だ、未祐とは育ちも歳も違うけど。変なプライドから分不相応な受験をして入学した君更津南女子だったけど、私を待っていた学園生活は周りのお友達に上手く馴染めない自分でまとっていた殻に悩む毎日だった……。
クラスメートが話すキラキラした話題にもついていけなかった。しばらく私にはお友達は一人も出来ない日々が続いた、ぼっちな学園生活がとても苦しかった。だけど両親には何も言えない。ましてや拓也お兄ちゃんに相談なんてもっての
そんなある日、教室で一人食事を取っていた私に声を掛けてくれた女の子。
『ねえ、ウチの家業の余り物で悪いけど、おかずが沢山あるから一緒に食べない?』
森田千穂ちゃんと初めて一緒に食べたご飯の味は今でも忘れない……。
そして彼女に誘われるまま私はアニメ同好会に入部した。もともと私も漫画やアニメがすきだったし、なにより拓也お
「よし!! 森田、もう少し着ぐるみの背中を持ち上げてくれ、兄上の身体を固定するぞ。そうそう、いい調子だ……」
私が物思いに耽っている間に、着ぐるみの準備を二人が進めてくれている。
広瀬部長が拓也お兄ちゃんを前から抱えて、着ぐるみの微調整を千穂ちゃんが担当している。昏倒している人間は意外と重いんだと介護の経験もある先輩が教えてくれた。やっぱり手際も良いんだな。
私が安心して二人を守る最中に事件は起こった……。
「ああっ、駄目だ!? 森田、急に手を離すんじゃない!!」
千穂ちゃんの着ぐるみを支える手が滑り、せっかく中に半分ほど入っていたお兄ちゃんの身体が広瀬部長にむかって倒れ込む。このままでは頭を激しく床にぶつけちゃう!?
「うわうわっ!? お兄さんの身体が前に倒れちゃうよぉ!!」
「くっ、間に合うか!?」
ガタガタッ!!
鈍い音と共に着ぐるみが床に倒れた。
「きゃああああっ!?」
千穂ちゃんの悲鳴が部屋に響きわたる。
拓也お兄ちゃんと広瀬部長の安否は……!?
次回に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます