天上院天下の優雅で退屈な1日

へっぽこ

天上院天下異世界に立つ

 天上院天下てんじょういんてんがの朝は早い。


 朝4時30分にはパチリと目を覚ます。自慢の黄金に煌めく髪をふわりと空中へ靡かせて起き上がる。


 勿論アラームなどと言う無粋なものは使わない。何故なら私は天上院天下なのだから。


 朝起きてやることは、まず口をゆすぐ事だ。いくら天上院天下でも寝起きの口は臭い。勿論ゆすぐ水は一本一万円以上する高級品だ。


 そしてすぐに下着一枚になり、敷地面積五万ヘクタールの土地をランニングする。

(作者は五万ヘクタールがどれくらいの広さか分かっていません)


「ふう、今日も素晴らしい走りだった」


 一時間程で敷地全体を走り終わると自宅に戻り下着を脱いでシャワーを浴びる。


 その姿は誰もが目を奪われる程の輝きを見せる。シャワールームにLEDを沢山仕込んでいるのだ。


 シャワーから出ると早速ビジネスの時間だ。


「ハロー?そうだ!その会社の株を五億株買うんだ!」


 いきなり英語で挨拶したかと思うと日本語で話し始めて、会社の株を五億株買う程の取引を成立させる。

(大体五億株も買ったら会社乗っ取れるんじゃ?)


 今日もビジネスが成功したご褒美に二千万円のシャンパンを開ける。


 その時!天上院天下の足元が怪しく光る!


「な、なんだこれは!?」


 見た目と言動からは想像も出来ない程チープなセリフを吐く天上院天下。激しい光に包まれ、目を開けていられない。天上院天下をもってしてもだ!


「…っ!なんだったんだ!」


 光の刺激が目から少しずつ取れていく。うっすらと見えるその景色は─


「な、なんだここは!?」


 そこは紫雲が浮かび何かの怨念が蠢く様な古びた城が見える場所だった。遠くに見えるその城を見て


「ここは…何処だ!?いや…そうか。時が来たか」


 天上院天下は大体何でも受け入れるタイプである。そしてその場のノリで動く。


「ならば、私が向かうのは──あの城か」


 何が、ならばなのかは知らないが天上院天下は城へ向かう。彼が向かうのであれば誰にも止められない。


 道中、天上院天下は見慣れない者に出会う。顔は豚の様で身体は人間の形を取っている。しかし何かしらの言語を喋っているが、全く聞き取れない。


 天上院天下は地球上の全ての言語を操れる。その彼が聞き取れないのである。



 何足る屈辱!!


「いや……待て」


 天上院天下はふと思う。もしやこいつは言語を話していないのではないか?それなら納得がいく!全ての言語を操れる私が聞き取れない筈がない。


 経験と実績に裏打ちされた結論である。それならば目の前の醜悪な者は一体なんだ?言語を解さない者…つまり怪物。monsterではないか?


「そうか、私に滅ぼせと─」


 勝手に納得してどんどん進んでいくのが、天上院天下なのだ。しかし、いくら天上院天下でも体格差はある。相手は少なくとも二メートルは超えている。


 その時自身の目が空気中に浮かぶ光を映す。あれはなんだ?今まで見た事の無いものだ。


 しかし、そこは天上院天下である。即座にそれがなにか理解する。これは──



 私だ!!


 読者諸君は意味がわからない事だろう。因みに私もわからない。


 しかし、天上院天下は生まれた時から知っていた様に光を扱う。まさに天才なのだ。


「ふん…言葉も解らぬ怪物め…」


 急速に豚顔の怪物に光が集まっていく。豚顔に掌を向け、握り混む。


「 爆 ぜ ろ !」


 その瞬間、強烈な光と共に豚顔の怪物が爆発する。流石は天上院天下。相手がずっと話し掛けてきていたが、天上院天下の解らぬ言語など無いのだ。


 豚顔の怪物は天上院天下が放った爆発でも、原型を留めており相当に頑丈なのだろう。しかし、しばらく動くことは叶わない。そしてまた、天上院天下が優雅に歩き出す。


 そう言えば、ふと今の自身の格好を思い出す。シャワーを浴びた直後だオートクチュールのバスローブ(三億円)を着ていたのだった。やはり着心地が良すぎて最早着ていることすら忘れていた。


 ちなみに爆ぜろのポーズは練習済みである。天上院天下は何事にも余念がないのだ。


 そして、城へ向かう道中で襲われてる女性を見つける。相手は男五人で女性に乱暴しようとしてる。


 天上院天下は紳士だ。その様な行為は認められない。決して!


「待て!悪漢ども!」


 すぐにこちらに気が付く男達と女性。男達は下卑た笑いを浮かべながらこちらに向かってくる。格好は貧相で薄汚れてはいるが荒事には慣れているのだろう。足取りは迷いがない。


 女性は天上院天下が自分を助けようとしてくれていると気が付いたのか、何事かを叫ぶ。


「っ!!─────」


 その時天上院天下に衝撃が走る。まさか!そんな事が!!急いで相手へ掌を向ける。そして叫ぶのだ。


「 爆 ぜ ろ !」


 そして敵は動かなくなる。そう──


「っ!───!!」


 悪漢の振りをした怪物達が何事か喚いている。後ろを振り返り唖然とする怪物もいる。


 そう、悪漢達に襲われていた女性の言語が解らなかったのだ。


 あり得ない!そう天上院天下は全ての言語を操れる!ならば、天上院天下が聞き取れない言語では無い音を口から発したあの女は…


「monster…」


 そう怪物に違いない。危なかった天才の天上院天下をして、騙される所だった。悪漢と女性は私を罠にはめる為の芝居だったのだ。


「貴様らもだ──爆 ぜ ろ !」


 勿論悪漢達も冥土に送ってやる。


 おや?天上院天下としたことが…女性の見た目に情けを掛けたのか、まだ少し動いてる様だ。まあ、仲間が居なければ然したる驚異にはなるまい。


 そう、天上院天下は心が広いのだ!


 なんとか卑劣な罠を掻い潜り村とも呼べない集落の様な物が見える場所に辿り着く。遠くから見える限り人間が生活してるようだ。


 集落に近付くか迷う。何故ならいくらみすぼらしい集落とは言え天上院天下がこの様なバスローブ(三億円)姿で人前に出ても良いのかと言う問題だ。


 いつもなら、ビジネス用に仕立てたスーツ(三十億円)を着てビシッと決めるのだか、着の身着のまま放り出されてしまっている現状だ。


「さて、どうするか」


 だが、やはり天上院天下である。冴えている。いや、天才なのだ。


 ふぁさぁっ─


 おもむろにバスローブ(三億円)を脱ぎ去る。


 この様な物で私の肉体を隠す必要など無いのだ。何故なら!私は天上院天下なのだから!


 そう、露出狂である。いや、天上院天下なのだそんな事はない。…そうだ!裸体を見せることで魅せているのだ。


 そして下着にまで手を掛ける。産まれたままの姿だ。そう、天上院天下が産まれた日は動物達が一斉に歌いだし、魚達は空を飛び、人々は何故か老若男女問わず涙を流したと言う。


 その!天上院天下の裸体が今ここに曝されるのだ!!


「キャーーーー!!」


 勿論集落には悲鳴が木霊する。幸いだったのは悲鳴だったから天上院天下に聞き取れた事だろう。もし悲鳴でかき消されて居なければこの集落でも…先程の惨劇が起こっていたかもしれない。


 優雅に見せ付ける様に歩く天上院天下。何も恥ずかしい事は無いと主張するように全身で表現する。


「さあ!見たまえ!これが私──天上院天下だ!」


 変態である。集落の皆様申し訳ございません。勿論集落の住民は寄ってくることは無く、皆一様に家に閉じ籠り天上院天下が過ぎ去るのを待つ。


 誰も天上院天下の道を遮る事など出来ないのだ。



 そしていよいよ目的地の古城の前に辿り着く。勿論全裸だ。城の前には個性豊かな怪物達がひしめき合っている。


 ライオンに羽が生えた様な怪物、肌が紫の人形の怪物、首が八本もあるドラゴンの様な怪物。それぞれが天上院天下の理解できないナニカを発している。


「ここが…私の終焉フィーニスか」


 旅の終わりを感じる天上院天下。早いようで短い様な旅だった最短で向かったから近かっただろう。


「さて──終わりにしよう」



 そう言うと再び掌を怪物達に向ける。より一層の光が集まる。これならば──


「爆 ぜ ろ !!」


 !が二個も付いて威力が相当上がっている事が解る。今の一撃は神にも届き得るだろう。


 怪物達は皆倒れている。しかし、古城の中から邪悪な気配がヴィンヴィンとしてくる。


 天上院天下の心は踊っていた。今から邪悪な者に立ち向かうのにだ。


 それは、初めての驚異だった。今まで天上院天下に並ぶものなど居なかったのだ。しかし、この邪悪な気配は私に届き得る!


 そう確信する天上院天下は、また優雅に敵の元へ歩き出す。無人の野を行くように。



『貴様か、我が国の民を傷付ける者は』


 天上院天下をしても驚くべき事に頭に直接言葉を掛けられる。流石は終生のライバルである。今日会ったばかりだか。


 見た目は紫の肌をした青年だか、頭には角が生えており言語が通じなければ危うく爆ぜる所だった。


「やっと言語を話す者が現れたか。しかし私は傷付けてなどいないぞ?」


 天上院天下は傷付け無い。何故なら弱きを助けるからだ。


『ふん、白々しい変態め。罪は全て曝されておる。大人しく認めよ』


 人の事を変態呼ばわりとは随分なライバルだ。しかも罪などと…天上院天下は罪を犯さない何故なら全てが自分を中心に廻っているからだ。


「何だい?大体君は失礼じゃないか?先ずはお互い名乗るべきだろう?ビジネスマナーも知らないとは…」


 全裸の男がビジネスマナーを説く。まずは服を着ろ。


『話にならぬな、ならば力ずくだ』


 そう!天上院天下は話を聞かない!彼のやっている事は正しい。しかし、誤算があるとするならば──


「ほう、君も光を操るのか。しかし、甘いな。私が普段食べている純度100%のカナダ産のメープルシロップ(十万円)より甘い!」


 そう、相手は天才。天上院天下なのだ。


『な、なに!?魔力の制御が効かないだと!?貴様直接魔力を操れるのか!』


 優雅に手を振り光を集め出す天上院天下。光が見えるものならば、目を背けて光を直視出来ない程だろう。


「それでは私の本気を魅せてやろう」


 見えない筈の魔力が形を表し始める。ここまで練られた魔力などこの世界が始まって以来一度たりとも無いだろう。何故ならこの光を放出したならば世界は──


「ゆくぞ──唯 我 独 尊」


 天上天下唯我独尊。天上院天下の一番好きな言葉だ。その言葉が発せられた瞬間に世界は光に──



「なぁぁぁにやってくれてんのぉぉお!」


 気が付くと何もない白い空間に居た。そこでもやはり天上院天下は輝きを放っている。


「ん?ここは…君は誰だい?」


 目の前には肩で息をしながらこちらを睨み付ける絶世の美女が居た。天上院天下の美貌には叶わないが。


「あんた!異世界に行って何でいきなり世界を滅ぼそうとしてんのよ!」


 何やら美女は怒っているらしい。しかし世界を滅ぼすとは、また物騒な。


「何を言っているんだい?そんな事より今夜一緒にディナーでも如何かな?mylady」


 美女が居れば食事に誘う。これは紳士の嗜みなのだ。


「はぁ!?んもーー!話になんない!もう良いから元の世界に帰りなさい!」


「何を言ってるんだい?ここは素晴らしい二人だけの世界だろう?myhoney」


 美女が居れば口説く。それもまた紳士の嗜みだ。


「………もう良いわさよなら」


 冷ややかな目でこちらを見ながら手を一振する美女。それと同時に光が天上院天下を包み込む。


「それは残念だ。きっと僕らはまた会える。その時を楽しみにしてるよmysweet」


 別れの挨拶は甘く。これも紳士の──もう良いか。





 気が付くと空は暗かった。


 日本に天上院天下が戻ってきたのだ。


 天上院天下が地球上に存在しない間に世界は災害に見舞われ、株価は暴落し世界大恐慌一歩手前まで進み、冷戦状態の国々が核兵器を使う所まで来ていた。


「ふぅー…やはり私が居ないと…」


 改めて思う。天上院天下は地球に必要なのだ。いくら異世界で罪もない民を爆発しようと、異世界を崩壊一歩手前まで持っていこうとやはり…


「さて、今日も退屈な1日が終わってしまった。夜更かしは良くない」


 そうして眠りにつく。


 そう、天上院天下は眠るのだ。明日の退屈を求めて。

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天上院天下の優雅で退屈な1日 へっぽこ @tetu20190809

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