prologue:万魔殿Ⅱ
「大分消耗させたつもりでしⅡ共に不定形の怪物が、何十、何百と召喚される。それは暗い海を覆いつくすクラゲの大群のようだった。
灰色の老人はそれを見ると、現れた怪物達に向け、再び銀の腕をかざし、先ほど怪物たちを爆散させた光線を放とうとする。
黒衣の青年はそれを待っていたかのようにほくそ笑むと、左腕を高らかに掲げる。灰色の老人のいる方向へ振り下ろす。突如、灰色の老人の直上に開いた亀裂から、流星群が、灰色の老人目掛けて飛来する。
黒い稲妻を帯びつつ迫りくる流星群を見て、灰色の老人はかざしかけていた銀の腕をマントの中に戻す。灰色の老人はマントの中から銀の腕を再び出すと、その手の先には銀色の鍵が握られていた。
灰色の老人が何かを呟く。すると眩い光と共に老人の目の前に金色の扉が現れる。老人の背丈の数倍はあろうその金色の扉は、中央に錠があり、更にその上から何重にも鋼の鎖が巻かれ、固く封印されていた。
灰色の老人は手に持った銀色の鍵を勢いよく扉の錠に差し込み、そして回す。瞬間、溢れ出る光と共に鎖は飛び散り錠が落ちる。
扉が開かれる。虹色の光が、扉の内部で渦巻いている。
灰色の老人は右腕をマントから取り出す。その腕の中には、雪白のおくるみに包まれた赤子が目を閉じて眠っている。老人は一瞬赤子を見入るも、間髪入れずに扉の先の虹の渦目掛けて、おくるみを投げ入れる。それが扉の先の渦に吸い込まれると同時に扉は締まり、搔き消えていく。
直後、流星群が灰色の老人に直撃する。
暗黒空間全体を揺るがす大爆発。全てが消えたその空間に、灰色の老人の姿はどこにもなかった。黒衣の青年はマントをしまいこみ、呟く。
「ふむ。逃げられてしまいましたか……。まあよいでしょう。いずれにせよ、行先は一つしかない」
黒衣の青年が右の手の平を上にし、胸の前にかざすと、半透明の球体が現れる。それを眺めながらほくそ笑む。その球体の中に映っていたのは、蒼く輝く水の星。
地球だった。
黒衣の青年はその口を張り裂けそうなくらい開き、高らかに笑い声を上げる。その甲高い、狂気迸る声は、暗黒空間の果てまで響いていくのだった。
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