第12話 路地裏の乱
「――うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
腹の底から恐怖と驚嘆の叫び声をあげる僕。
頭上には暗闇の中きらりと光る刃が見えた。生まれてこの方17年、一度も見たことのない刃渡りのソレは切っ先を僕に向けたまま、降ってくる。
――金髪ツーブロックの輩と一緒に、降ってくる。
「――魂の均衡を乱す穢れは、ここで叩ッ切る」
などと、物騒な言葉を添えて。
「――――あ」
僕は、それでも尚、僕だった。
――あ、死ぬんだ
と。今年二度目ながらそんな風に思った。
そして、
――死ぬのか
と落胆した。
人生にやりのこしたことがあったのだろうか、いや、これといって僕には大層な夢は無い。別に今日死のうが明日死のうが、何十年先に死のうが、僕の人生の総合点は変わらない。
ずっと、平常運転で、平凡だ。
自然と思考が循環する。
――まあ、仕方ないか
死を受け入れて、現実を受け入れて、僕が僕足る所以を思い知る。
――仕方ない
――これが、僕だから
覆いかぶさるように降ってくる人影を、受け入れる。
そして、ゆっくりと目をつむった。
僕は、僕の人生の終わりを受け入れる。
刹那。
「――アァッ!? ンだよこれっ!!!!!!!!」
頭上で叫ぶ輩の声。
時をほぼ同じくして、耳をつんざくような金属がぶつかり合うような音。
ガキン、ガキン、と。
何度も何度も、その金属音は僕の頭上で鳴り響く。
暗闇を時折火花で明るくしながら、何度も何度も。
真っ暗闇の世界の中、頭上で何かが起こっていることだけが分かった。
「――クソがッ!」
その応酬が幾度か続いた後、僕の頭上から人の気配が消えた。
体に刃が突き立てられることもなく、まるで何事もなかったかのような空間に意識が戻ってくる。
・・・あれ? 僕死んだ?
そう思った瞬間、
「XXXX■XX■XX■XXXXX■■■■■■■XXXXXXXXX■■■XXXXXXXX■■■■■■■XXXXXXXX■■■■■■■■■■XXXXXX■XXXXXXXXXXXXXX■」
!?
――けたたましい呻き声と共に、無数の嬌声があたり一帯に響き渡る。右から、左から、上から、下から。
至る所から、無数の声が、路地裏でこだまする。
「――おいっ政信ッ! 聞いてねえぞこんなのっ! 何がどうっなってんだ、クソっ! まさかここ、崩魂の住処だったのかよ!」
「――そんなはずはない。椎名が結界から崩魂の侵入を許したんじゃないのか」
「ちょ待ってよ政っち~。ウチの結界術なめんなし。ていうか、諸ちんがいきなり突っ込むから悪いんじゃん? 最悪、的な?」
なんだか険悪な雰囲気だ・・・
嫌々、僕は目を開く。
そこには、やはりあの転校生――金髪ツーブロックのヤンキーみたいな彼が立っていた。右手には鋭い刃を携えた刀を持っているし、服装も制服ではなく、白い軍服っぽい上着を羽織っている。
そして何よりも驚いたのは、僕が立っていた狭い路地裏が、無数の人だかりで埋め尽くされていたことだ。
「へ・・・何が起きて・・・」
そして気付く。
・・・これは人じゃない。明らかに違う何か。
この人たちは、いや、こいつらは僕が校舎で見たあの化け物に似ている。
そうだ――女性の姿をした、ヒトではない化物。
そんな僕の思考をよそに、化物たちは僕を襲った金髪ツーブロックの男子生徒に歩み寄っていく。大きな群れが、一つの点を中心に引き寄せられていく。
「――近寄んなッ! 腐れ魂どもがッ!!!!!」
ブンブンと振られる刀が空を切る。
彼の元には無数の何かが寄っては斬られ、寄っては斬られを繰り返していた。
「クソがッ! キリねえぞこんなの!」
金髪ツーブロックの彼は何度も剣をふるい、その度に化物たちは体を斬られ、血を吹き出すこともなくただ宙へと消えていく。まるで煙が実態を持ったかのように、無数の化物が彼を覆い尽くすように密集していく。
――僕という存在は無視して。
「――おいっ――はやッ――助け――――――がれっ!!!!」
そうして、特徴的な金色髪の毛が無数の化物たちによって完全に覆い尽くされそうになった時だった。
「――椎名、作戦βに変更だ。諸星は俺がカバーする。代わりにキミが本丸を叩け」
「らじゃ~ 椎名ちゃんにお任せあれっ♡」
かなり前方で話していた丸眼鏡の彼と、椎名と呼ばれていた彼女が、同時に何かを唱える。さっき、僕の頭上で金髪ツーブロックくんが唱えたものと全く同じ要領で。
「――我、魂を解放せん――」
「――我、魂を解放せん――」
瞬間、僕の目の前に、彼女が飛んできた。
勿論、ガールフレンド的な意味合いの彼女ではない。
先ほどまで姿さえ見えなかった、かなり離れた位置に居た、
椎名と呼ばれた女性。
「よろぴょん、初めまして、ハバキっち」
「――ぁ」
朝、教室で見た時の顔と変わりないはずなのに。
その目には優しさやぬくもりなど微塵もなかった。
僕の心のその先の、命をただ狙っている。
そんな風に思えてしまった。
そして、その予感は残念なことに的中する。
「――そんで、死んでちょーだいっと♡」
「ぇ――」
声も出ず、反応も出来ず、ただ与えられた視覚情報を数秒遅れて認知する。
音が、思考よりも先に僕の終わりを告げる。
グサリ、なんてかわいいものじゃなかった。
彼女の持つ何らかの武器が、僕の胸に突き立てられると同時に、視界が大きく揺れ、全身が凍り付くような豪快な音が、僕の胸部から奏でられる。
彼女の冷徹な声と共に――
「
「――――――――――――――――――――――――――」
薄れゆく意識の中、それでも目を開いていた僕は気付く。彼女の服装も制服ではなく、真っ白な軍服らしきものに変わっていたことに。
・・・大きい・・・。
胸元が大きくはだけたその姿は、死に際の僕にとっての眼福だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます