第二章
33
「はい、確かに。これで……彼女の所有権はこちらになるのですね? ……では今まで御世話になりました。また機会があれば。ええ、辺境伯殿にも宜しく伝えておきますね」
……
スレイの街近くの森、帰還困難な程ではないが人が迷い込むには少し深い場所。
真昼なのに薄暗い森の広場、いや少し開けた道に佇む、金髪緑目で耳が尖るエルフ族と思われる少年と、それに付き添う短髪黒髪のまだ成人前と思われる人間族の少女。
少年が右手に持つ羊皮紙の巻物には何らかの文字及び魔法陣が書かれている。魔法陣は薄く発光している。
少し離れて首輪をした成獣とみられる白い狼。その毛並みは僅かに発光している。近くの樹の根元には黒髪の少女より年下に見える白く長い髪の少女が幹に寄りかかりすやすやと眠っている。
ここでは何が起ころうとも、簡単に助けに入る事は出来ない……。
「さて、この証文を破り捨てたらその瞬間、お前は自由となる。このまま森の奥に逃げるなり、俺の喉笛を噛み千切って復讐を果たしてもいい」
「ちょ、ちょっと……そんな……」
「……」
「異存はないな……では……」
ビリビリッ! 少年が躊躇なく羊皮紙の奴隷契約書を破り捨てた。
その瞬間に白い狼は、閃光かと思わせる速さで少年に襲い掛かりっ!
ドサッ!
「ちょ、ちょっと待っ……!」黒髪の少女が叫ぶ!
哀れ少年はあっけなく組み伏せられ……!!
……
……ぺろっ!
……狼に耳を舐められた。
「……ふんっ、貴様には我が眷属を3人殺された恨みもあるし、無理やり人間体の貞操も奪われた恨みもある……」
……狼は少年を組み伏せるのを止め、少女のような声で話す。
「が、貴様をここで殺しても、眷属も、少女体の処女も戻ってくる訳でもない……貴様には、生きる意欲を失くしていたワシを生かした責任を取ってもらわねばならぬ……。
まぁ貴様に襲い掛かった彼奴らを止める事が出来なかったワシも悪いし、今貴様を殺して野生に帰るのを躊躇うほど小娘の料理は魅力的だしな……小娘の妹の悲しむ顔を見るのも忍びないし……なので、その……少なくとも小娘とその妹が寿命で死ぬまで……いてやっても……白狼人族の寿命の前では瞬きの様なもので……」
「はいはい、ツンデレ乙。ま、お前が本気で俺を殺そうとしても、例の「技能」で回避出来たんだがな。害意がなかったから今の「口撃」は回避出来なかったが」
「そ、それはずるいぞっ! 後つんでれとはなんじゃ! また怪しげな単語を使いおって! いい意味ではないのは分かるぞ!」
「もう……2人ともっ……素直じゃないんだからっ! でも……これからも3人で一緒だねっ♪ 早速今日は2人とも寝かせないんだからっ!」
「やめろおおおおおおおおおおおおおもふもふするなあああああああああ!!」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
白い狼体の白狼人族・アルテミスの叫びと、彼女に抱き着きながら少し泣きそうになってる黒髪の少女、アテナを尻目に、エルフの少年、アヤカートはやれやれといった感じでパンパンと泥で汚れた衣服を掃った。
「さ、奴隷契約は終わったがこれからは「仲間」として宜しく頼む。アルテミスの戦力も経験も、俺達のスローライフには欠かせないものだしな」
「……ふん、あくまで小娘たちがいる間の仮のものだ。ワシが納得出来ない事をやらかすのならすぐに寝首を搔いてやるからな」
「じゃ、今日は新たなる仲間の誕生に、そして第二婦人とよりを戻した記念に、スレイの街に戻ってお食事会をしましょう♪」
「だからワシは婦人じゃないっ!」
「まあ、そうだな……俺は……ちょいと奮発してボア肉のフィレステーキが食べたいな。そして強制じゃないが、食事の前の作法というのを思い出してな……形だけでもいいからやって欲しい。食いしん坊の女神に捧ぐ、って奴で……」
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