32
そういえば、と空気を換える為に辺境伯にだけ聞こえるようにこそっと面談を打診する。
「へ、辺境伯殿……一応一つだけ、ご息女……ネメシスに内緒の話があるのだが……」
「ん?何だ……本当に私を抱いてみたいのか?」
「違う!」
まぁこの後真面目な話と察してくれたので、一度ネメシス・アテナ・アルテミスを退席させてくれる。部屋に残るのは俺と辺境伯殿とテティスのみだ。
……
「スレイの街で襲ってきた暗殺者か……ヘレネから報告は聞いているが、残念ながらその後尋問前に服毒自殺してしまった」
「本当か……」
「確かに辺境伯という立場上我が一族は様々な勢力から狙われてもおかしくない立場なのだが、ネメシスは言った通り継承順位も低く、そもそも冒険者だ……その暗殺者は大胆にも白昼に仕掛けてきたらしいが、婚約者殿が言われる通り依頼を受けダンジョンの探索等をしている時に襲う方が成功率も高く、かつばれ難いであろうな」
「白昼堂々の犯行……暗殺者が露呈しても構わずネメシスを暗殺しようとする意味か……」
俺は特に探偵系の漫画やアニメが好きな訳でもない。各国の陰謀等に巻き込まれたくもないが……
「むしろ白昼堂々、冒険者とはいえ辺境伯息女でもあるネメシスを暗殺する事で力を誇示する、もしくは現在緊張している各国のバランスを崩す等も考えられるな。領土を持ち慕われているネメシスがそういう政治の柵で暗殺されたとなると、領民に悪しき感情も沸くかもしれん」
「バーボあたりからの間者か、あるいはそれに見せかける為の策か……ふむ、更に詳しく調査する必要がありそうだな」
辺境伯殿はしばらく考える様子を見せる。ネメシスより若く見えても流石は上位貴族か。
「判ってると思うがその様に混乱させる事自体が狙いかもしれんよ。何にせよすまんが御息女は俺が命にかけても守る、とも約束出来ない……俺は彼女よりずっと弱いだろうしな」
「その辺りは平民である婿殿に迷惑をかけぬようにするよ……あの子は貴族でもあるが冒険者だ、いつ果てても覚悟はしているだろうし……だが、婿殿も自身をそこまで卑下する事もあるまい?私の目にはその技能、空を飛ぶだけには到底思えぬのだが……」
う、鋭い……とはいえ俺の能力は受け身の能力だ。これがネメシスは元よりアテナやアルテミス、ルナちゃんとかにも作用するのならいいのだけどな。
「買いかぶり過ぎだ、瞬間移動の様な物でもないしまだ不明な点もある。とても戦争時に利用出来るようなものでもないしな。言ったが俺の目標はスローライフだよ。勿論それを脅かすものから家族を護る為には全力で戦う覚悟はあるけどな」
「む、残念だな……とても記憶喪失には見えぬその聡明さ、ネメシスの件がなくても是非我が臣下として好待遇で迎えたいのだが……」
「好待遇は幸甚だが遠慮しておくよ。ともあれ言いたい事は言えたし、そろそろ帰宅させて貰うよ……我が婚約者、アテナも賢者様、アルテミスも落ち着かないだろうしな」
「ふふ、私はまだ諦めた訳ではないぞ……無論ネメシスも、な。まぁとりあえず、第一第二夫人との結婚が決まったら連絡をしてくれ。辺境伯家として、未来の第三夫人家として祝福の品を送ろう」
「そこまで派手な式にするつもりもないし、ほどほどで頼むよ……」
……
さ、帰宅の時間だ。ヘレネや他の騎士にも任せてはいるがルナちゃんを置いてきてしまったしな。のんびりと馬車で10日かけて帰る訳にもいかない。
ネメシスは元々2週ほどの予定だったし、そのまま親元に残るようだ。ヘレネたちへの帰還命令をしたためた書を持ち、辺境伯邸の屋上へのぼる。
「大天使さま、いえアヤカート様、父の容体が落ち着き些事を済ませた後、またすぐに向かいますわ。それまでわたくしをお忘れにならぬよう~」ネメシスがハンカチを噛みながら未練たっぷりに見送る。
「ふふっ、どうかしらね?私とアルテミスがただ待ってるとは思わないでね?アヤカートの一番は私なんだからっ♪」アテナが自信たっぷりにネメシスと話す。
「だからワシを撒きこむなっ!辺境伯よ、奴隷市への交渉、忘れるでないぞ?」アルテミスが俺に抱き着きながら言う。
「ええ、承知しております。では皆様、名残惜しいですが……また」辺境伯がどこか含みを持たせた口調で言う。
「じゃ、出発するか。アテナ、アルテミス、しっかり掴まってろよっ!」
そういうと俺は、愛しの我が家へと向けて辺境伯邸の屋上から飛び出した。
……
……
……第一章 完
……
……
……ふう、最初にあの技能を習得した時はどうなるかと思いましたが、思ったよりは面白い生活を送れているようですね。
でもまだまだ、もっと世界をかき回してくれないと……期待してますわよ、転生者様♪
※一応第一章完です 皆様お付き合いありがとうございました♪
第二章以降に関しては現時点で全く考えてませんが^p^頑張りますー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます