第53話 加速する粛清

ゲル「で、次は誰だ」

海斗「拘束島に戻るぞ」

ゲル「反省を促さないのか」

海斗「後悔している、国のためにな」

ゲル「決断に緩みが出てか」

海斗「粛清在りきの現状打破に迷いがあったのは確かだ」

ゲル「猛沢蕩や秀欣平のやり方を見れば問題山積みだからな」

海斗「粛清では問題解決にならないと考えていた。独裁者の粛清じゃない。遺恨が残

   るからな。でも、間違っていた。粘着質な考えを蔓延らせば思考の汚染を拡張

   させ、新たな不都合な者を生み出す。自由と名の元で拡張させる病巣だ」

ゲル「幾ら自由と言えど、基本的なルールがあるからな。温和な自由主義者を狡猾に

   難癖・異常な解釈で正当化に可笑しな団体員が粉飾させる。愚かで無知な者は

   実像の平和ではなく歪められた平和を信じ邁進する。根本が変わらなければ何

   も変えられない。健康体を手に入れるためには病巣を躊躇わず削除すべきだ。

   ここ段階で緩みが出れば腐敗する。妥協は破滅を招くものさ」

海斗「独裁者の自分の地位・利権を維持するための粛清は悪だ。しかし、病巣を除去

   する粛清は必要悪だ」

ゲル「悪には変わらないがな」

海斗「だから、躊躇していた。しかし、放置して病巣が広がれば更なる粛清が必要に

   なる。見切り発車であろうとも実行すべき。結果の良し悪しは未来が判断する

   だろう。思考の歪みは強烈な破壊力を持つ爆弾と同じだ。原爆が作られそれを

   遥かに上回る水爆が作られた」

ゲル「人類は愚かだからな。実験で破壊力を確認しても実際に使ってみることが全て

   であり、使った後の脅威に恐怖と希望を抱く。原爆の父・オッペンハイマーは

   その破壊力の恐ろしさが争いを鎮めると考えたが、それを自我の欲望に使う者

   がその破壊力を支配に悪用した。原爆でさへあの威力。水爆は地球をも変形さ

   せ消滅させる。人類滅亡の確立を確実に高めることを知ると誰も水爆に触れな

   くなったのも表面上の事実だ。インドの聖典・バガヴァッド・ギーに記されて

   いるように我は死神なり。世界の破壊者なり。死神は神であり、悪魔じゃない

   のになぁ。破壊じゃなく生産のためのものだからな」

海斗「自分の行いを正当化するものではないが放置すれば被害は甚大になる。それを

   食い止める方法が他に見つけられないだけだ。だが立ち止まれない。火中の栗

   でも拾うさ。私が信じる正義のために」

ゲル「お前の正義とは何だ」

海斗「愛する国の文化と生活が平穏で豊かになることだ」

ゲル「大きく出たなぁ」


 海斗は穏やかな海を拘束島に向かって船を進めていた。


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