第34話 公金チューチューの罰

 山元与多郎が目覚めたのはどこかの浜辺の岩肌だった。与多郎が寝ている間にクルーザーから小舟に乗り返され、浜辺の岩肌に寝かされていた。肌寒さと打ち寄せる波飛沫を浴びて目が覚めた。


山元「ここはどこだ。どうするんだ」

海斗「地図にない島だ」

山元「地図にない。どういうことだ」

海斗「探せないってことだ」

山元「どうする気だ」

海斗「安心しろ。危害を加えたりしない。大人しくしていればな」


 黒装束の男たちは無言で山元を抱え込み、山道を進んだ。しばらく歩むと開けた場所が目に入ってきた。


山元「ここは」

海斗「自習室とでも言っておこうか。俗世間を離れ考える時間だ」

山元「考えることなどない。それより早く解放しろ」

海斗「解放する。そのためにここに来て貰った」

山元「ここで解放じゃない。東京に戻せってことだ」

海斗「その時がくればな」


 山元は半狂乱に成りながら馬事雑言を交えて何かを訴えていたが、海斗も男たちも聞く耳を持たなかった。山元は黒装束の男に引き摺られプレハブ住宅の一棟の前に連れて来られた。一室のドアが開けられると山元はその部屋に押し込まれた。ギィ~カチャとドアロックがかかった。


山元「何をするんだ、出せ、今すぐ出せ」

海斗「ドアロックは30分もすれば解除される。その後は出入り自由だ」


 海斗は山元の声に耳を貸すことなくその場を立ち去ろうとしたが「あっ」と思い出したように扉の前に戻った。


海斗「重要な事を伝えていなかったからよく聞け。一度しか言わないからな」

山元「今すぐ出せ、後悔するぞ」


 山元は半狂乱に成り泣き叫んでいた。バーン。海斗は扉を強烈に蹴った。山元の居る場所は密閉空間のようなもの。内側は雷が落ちたように爆音が鳴り響いた。


海斗「静かになったな。命に係わる事だ。静かに聞かなければ伝えない、いいな」


 山元は泣きながら「分かった」と絞り出していた。


海斗「食料を用意してある。別の棟にな。黒塗りの棟だ。事前調査で猛獣は発見でき

   なかったが100%ではない。戸締りはしっかりしろ。食料は一ヶ月分、一日、

   三食分を用意してある。全てお湯が必要だ。水は一ヶ月分のみ。後は自分で調

   達しろ」

山元「お湯?火はどうするんだ」

海斗「火ぐらい自分でおこせ」

山元「火のおこし方なんか知らない」

海斗「自分で努力しろ」

山元「できることとできないことがあるじゃないか」

海斗「努力して無理なら聞いてやるが、努力して出来ることをしない、できないは通

   らないからな」

山元「無理なものは無理だ」

海斗「原始人以下だな。努力もせず甘えることばかり。ここでは通じない。猿蟹合戦

   の猿を助ける筋合いはない。支援は今日から一年で打ち切る。それまでに自給

   自足しないと餓死するからな。暴飲暴食して食料が尽きても連絡方法はないか

   ら心して計画的に消費しろ」


 そう言い残して海斗は島を後にした。後方では山元の声がか細くなるのを感じていた。


隊員「仲間が増えることを教えないとあいつ一人で食ってしまいますよ」

海斗「火がおこせればな。それに仲間が増える安堵感を与えるのは勿体ない。生きる

   ことは簡単じゃないことを思い知らせないとな。誰かが助けてくれると胡坐を

   かくやつなど助ける価値などない」


 海斗たちが去って30分がたった。カチャっとロックが解除された。山元はすぐさま扉を開けて浜辺まで走った。そこで目にしたのは海だけだった。山元は膝から崩れ落ちしばらく動けなかった。穏やかな波の音で落ち着きを取り戻し食糧庫を確かめに向かった。庫内にはカップ麺が90個。2リットルの水が30本のみがあった。

 火のおこし方を必死で考えたが思いつかない。乾麺を齧ってみた。尖った麺が口内で暴れ噛めない。山元はふと思い出した。水を入れたまま三時間程放置すれば面が柔らかくなることを。考える時間をそれに当てた。大事な水を使う恐怖が山元を襲った。次回からは海水で麺を解すことにするか。絶望の中で一歩進んだ。確か一ヶ月と言ってたな。だとすれば一ヶ月は何としても生き抜かなければならない。漂流したことを思えば、最低限の食料と水があるだけましだと考えるようになっていた。























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