第21話 急我は回れ

期待、撃退、それ、奇態。

思った物とは違うと捨てるのは気が早い。

住めば都というように。

使えば、それなりのいいとこもあるかも。

期待するから嫌いになる。

期待しなければ新たな発見もあるかも。

文句を言うより、使いこなせ。

出来る、出来ないは、規格次第?腕次第?

文句を言わずに、使いこなせ。



ゲル「お前が知っている死神が持つ手帳とは違うと言う事だ」

海斗「どういうことだ」

ゲル「お前が手にした時はお前が知っている手帳だった。だが、

   それは初期設定の物でその後、アップグレードされた」

海斗「強化されたってことか」

ゲル「セキュリティがね」

海斗「やれる事が狭まったということか」

ゲル「ああ。直接には殺せないってことだ。それで合点がいっ

   た。魂界が絡んでいる時点で可笑しいなと思っていたん

   だ。奴らも直接には殺せない。自虐に追い込む。その方が

   相手に与えるダメージは大きいからな」

海斗「それじゃ、これは死神の物ではないってことか」

ゲル「残念だったな。死神を殺せないで、うふふふ」

海斗「じゃ、これの管理者は」

ゲル「所有者はお前だが管理者は俺だ、只のね。失敗をしても罪

   には問われない契約だ。だから俺が邪魔になっても手帳を

   使って俺を殺せない、残念だったな」

海斗「本当の管理者は」

ゲル「神界の誰かだ」

海斗「殺せない、か。それでもそこへ追い込むことは出来るんだ

   な」

ゲル「お前、死神よりエグイな」

海斗「で、使い方は」

ゲル「あいよ。ターゲットを決め、手帳に名前と行動の内容を明

   記する。本来、手帳を使うには動いている顔認識や声が必

   要だったが殺せない代わりに本人確認できる写真があれば

   いい」

海斗「それはいいな、簡単で。ネットになければ盗撮すればいい

   だけか」

ゲル「盗撮は犯罪だぜ」

海斗「手段なんて選んでいられない。結果だ、結果」

ゲル「冷酷に名前を替えたらいいんじゃないか」

海斗「遠慮しておくよ」

ゲル「まぁいい。この手帳は死神ではなく式神の俺らの管理下に

   置かれる。所有者の意志により式神を使い死期・死因・時

   間を調整できるが一度記載したものは変更は効かないと当

   初はあったが変更された。使用目的が変わったからだ。理

   由は聞かれても答えられないからな」

海斗「待て、待て、待て」

ゲル「何だ?」

海斗「殺せないっていったよな。なのになぜ、死期・死因・時

   間を調整できるなんて言うんだ、可笑しいだろう」

ゲル「鵜呑みは馬鹿な証だぜ。やり方だ。魂界が関わっている以

   上、精神的に追い込む、いやそう思わせる思考が行動に移

   される。仕掛ける側としては、自害も事故死も、他殺も同

   じだ。結果としてな」

海斗「面倒臭くなっただけじゃないか」

ゲル「あっさりより、酷だと思うがねぇ」

海斗「なぜ、そんな遠回りをする?愛読書に描かれている効力で

   いいじゃないか」

ゲル「そのうち分かるさ、きっとね」

海斗「どうやら管理者は秘め事が好きなようだな」

ゲル「上層部批判?俺は関係ないからな」

海斗「そうはいかない。巻き込んでやる」

ゲル「ほんと、お前、恐ろしいな」

海斗「誉め言葉だと受け取っておくよ」


 ゲルは敢えて変更内容を海斗に伝えないでいた。厄介な者を単発で始末していては切りがない。それよりも恐怖や警戒心を根付かせ周囲の多数の者に影響を与える方が効率的だと考えられたことを。

 何より粛清より目的達成の道筋を手繰り寄せる「道の開拓」を模索するためバーチャルで試し、道を築くことにあった。

 その過程により必要な者とそうでない者がコロコロ変わるのがシナリオだ。単体の獣が幾度も通り獣道ができる。幾多の人が使う事で街道が出来る。粛清すれば使えるはずの駒を失う事にも成り兼ねない。

 海斗にバーチャルを伝えなかったのは、やり直しが利くと分かれば手段が荒くなると判断されたからだ。海斗の性格から「独裁者」の虜になる恐れがあった。海斗に限った事ではない。願望が叶えられれば人は警戒心と疑心暗鬼になり、憶測をネガティブに発揮する。結果として周囲を信じられなくなり、孤立し、独裁者への道を歩む可能性が多いからだ。







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