第19話 死神手帳09-死霊の裁き

 悪事も日々となれば日常となる

 それを正義と思う

 困ったものです

 厄介な者は腐った蜜柑

 存在が悪。切り捨て御免

 悪事が蔓延り、闊歩する懲りない面々

 困った困ったでは済まされない

 ガツンと懲らしめてやりましょう他国の力を借りて

 ああ、無情、情けない、情けない



 冥界に裁きを受ける者がまた一人連行されて来た。ゲゲゲの鬼太郎に出てくるねずみ男のような服装の二体の蝕員が老人の左右に別れ手を拘束していた。大王の座の前に老人は二体の蝕員に背中を押され跪かされた。老人は先ほど急逝した煮貝元幹事長だった。


煮貝「何をするんだ!私を誰だと思っているんだ!只で済まさな

   いからな!」


 空席だった座に突然、大王が現れた。その形相に怯え煮貝は腰を抜かし後ろ手に座り込んだ。それを蝕員が座り直させた。


大王「只で済まさない…か。確かに只では済まないな」

煮貝「私はこの国の重鎮だ。直ちに解放しろ」

大王「この国の糞の間違いではないのか」

煮貝「ほざくな。それに何だ、この仰々しい真似は」

大王「状況が理解できてないようだな」

煮貝「どういうことだ」

大王「もう、お前は死んでいる」

煮貝「ば・馬鹿を言うな。老いぼれてもまだ元気だ」


 大王が蝕員に目配せすると左右に分かれていた蝕員は煮貝の両腕を左右に勢いよく引っ張った。バリ・グギと音がした。煮貝は大王に「両肩を見て見ろ」と言われ、首を左右に振ると両腕がなかった。腕は左右に分かれた蝕員が握っていた。


大王「どうだ、痛みはないだろう」

煮貝「ああああああ!」


 大王が再び蝕員に目配せすると抜き取った腕を煮貝の肩に押し付けた。すると元の形に戻った。ただ違ったのは、煮貝が振り返った事によって腕が左右逆に付けられたことだった。


大王「今の姿は便宜上だ。本来は実態がない。それではお前には

   理解できないだろうからな」

煮貝「私が死んだぁ?」

大王「供養の経もお前を拒んだようだな、哀れな」

煮貝「…」

大王「痛みを感じなかったであろう。それが証だ」


 煮貝は左右逆に付けられた腕に動転を隠せないでいた。


大王「では、裁きを言い渡す」

煮貝「ま・待て。裁きだと。私が何をした」

大王「自覚がないか。お前はこの国を蝕んだ。大罪だ」

煮貝「馬鹿を言え!この国に貢献はしても蝕むなど冤罪だ」

大王「善悪を見失ったか、愚かな」

煮貝「あんたに哀れだとか愚かだと言われる筋合いはない」

大王「国賊として処罰する」

煮貝「国賊だと。この国に尽くして来た私に、無礼な」

大王「尽くした?何を」

煮貝「貿易を盛んにし、高度成長を支えたのは私だ」

大王「毒を持ち込み、蔓延させ、この国を腐らせてか」

煮貝「毒?」

大王「その結果、美しきこの国の風土・民を汚染させてか」

煮貝「批判される理由が全く分からん」

大王「強欲な国にこの国を売り渡したではないか」

煮貝「法を犯していない。健全な経済活動だ」

大王「認めたな。悪法を改めず、それを維持し浸蝕した」

煮貝「言いがかりだ。経済は潤った」

大王「押し問答だな」

煮貝「間違った見解をしてるのはそっちだ。証拠はあるのか」

大王「証拠…。強欲の悪に浸透する者から献金を貰っているな。

   岸部総理が百万、お前が三百万。これをどう説明する」

煮貝「そんな献金は知らん!」


 そう言い終えるとヤットコを手にした蝕員が新たに現れた。既に控えていた蝕員が煮貝を抑え込むと新たな蝕員は煮貝の舌を掴み出し、ヤットコで挟むとぎゅぎゅっと引っ張り出し、「ああああ、やめろ、やめてくれ~」との籠った叫びに耳を傾けることなくハサミで舌を切り裂いた。「ああああ」。


大王「痛いだろ。痛みを感じさせるかは私の一存次第。嘘をつけ

   ば舌を抜かれるって教わらなかったか、ふははははは」


 煮貝の苦しみが治まり掛けると舌が喉の奥から迫り出して来た。「嘘をつけば繰り返される、痛みをましてな」と大王は煮貝に告げた。煮貝は大王の本気度を痛烈に受け止めた。腕を捥ぎ取られた。その痛みも大王の意志次第で味わう事になる。その恐怖が煮貝を支配した。


大王「自分が置かれている状況が分かったようだな。お前は、悪

   態の国の手先となり、議員に毒を拡散し、中毒者を増やし

   た。最近では中酷強酸党と深い繋がりがある死取家具の役

   員の娘を仲間と共に知事に推した。何としても当選させ、

   議員の中に入り込ませ、金と女を使い弱みを握るか飼いな

   らし、この国を内部から支配する。今まで極秘裏に用いて

   いた賄賂の拠点の調布食品が愚かな議員によって明るみに

   でた。話題を反らさせ議員という立場を利用し大胆に動け

   る拠点構築を画策した。密偵という角砂糖を潜入させ、群

   がってくる愚かな蟻を取り込む。お前の仲間は挙って応援

   に駆け付けた。調布食品から賄賂を貰っている連中だ。奴

   らは中酷強酸党への貢献度をアピールするために異例の応

   援行動に出た。お蔭でお前の後継者候補が明確になった。

   ひとつ不快な事がある。教えてくれれば情状酌量の余地は

   あるぞ」

煮貝「何だ、答える、何だ」

大王「お前らが知事に推した者が逆転当選した。86%から89%

   の開票時に数値が大幅に変わった。魂界が駆り出された米

   国の大統領選で行われた開票の魔法。前大統領カードがリ

   ードすれば必ず5%バイトのリードに変わる。寝静まった

   開票行動がされていない深夜にだ。バイトジャンプと呼ば

   れる大躍進が見られた。今回も酷似した現象が疑われる数

   値の動きがあった。性善説の票の読み取り。それを良い事

   に何らかの画策があったのか」

煮貝「し・知らん。ほ、本当だ」

大王「そうか…。お前が毒に嵌ったのは妻の事があっての事だ

   な。大病で移植しかなかった。その時の恩義だな。しか

   し、ひとつの命を救うためにひとつの命を奪う。悪魔の所

   業だと思わぬか」

煮貝「…。それは…。知らなかった」

大王「まぁ、いい。裁きを言い渡す。本来であれば無限地獄だが

   情状酌量し、ゴキブリとして生きよ」

煮貝「ゴ・ゴキブリ?」

大王「見つかれば叩き潰されるか毒殺。死骸は共食い。周りを恐

   れ生きよ。二度と人間には戻れぬわ」

煮貝「ま・待ってくれ~、私にはまだやることが…」


 煮貝は蝕員に担ぎ込まれ、裁きの門の前に立たされた。ギギィと重厚な扉が開くと煮貝の体は砂と化し崩れ、黒煙が渦巻く中に吸引された。扉が閉まると仁が現れた。


仁 「何故、温情を」

大王「温情?私の辞書にはない」

仁 「では」

大王「残留臭の為よ」


 残留臭は、死者が転生したり極楽に行けば現世に残される関りの証。無間地獄に行けば消臭される。街中で会った事もないのに何処かで会った、見たことがあるというのが残留臭の名残だ。大王はその残留臭を煮貝に関わる者を炙り出すため活かした。


仁 「そうでしたか」

大王「式神をここへ」


 仁は、大王の命により式神を呼び寄せた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る