第4話 蠢く大地

茶髪の少女、ランドは

アレグリア達をじっと見つめていた。

「アレグリア、あの子は多分地面とかを思うままに操る、みたいな能力だと思うよ。」

「私もそう思います。それを駆使して壁を作ったり、棒状の岩での攻撃も出来る。まだ見せていないだけで、もっと色んな芸を隠し持っているでしょう。」

「そんな人を流血なしで、降参させる方法かぁ。」

アレグリアが詳しいことを言わなくとも、

マールはアレグリアがどうしたいかわかっていた。

周りからアレグリア大好き騎士と揶揄されるのも納得だ。

「私の能力ではかなりリスクが大きいです。出来る限り電力を下げても、致命傷は免れません。」

マールに飛ばしていたような電波は

弱い電力なのだが、

弱くできるのは電波のみ。

電波は戦闘用には使えないのだ。

「でもな〜んか戦闘慣れもしてなさそうだし、地面を操る以外は何もないと思うな。私が気になるのはそれより、地面を操るってことはさ……」

「確かに、一筋縄ではいかないかもしれません。」

無論何か特殊なことが出来てもおかしくはない。

だが、そんな技となるとこの村の人々を巻き込むこととなる。

「彼女が一般人を巻き込むとは思いません。」

「ま、警戒はしとこうよ。」

確かに大技を警戒するに越したことはない。

しかしアレグリアには、彼女がそんな大技を起こすとは思えなかった。

まず、彼女が大技を出来るかどうかも分からない。

それに起こせたとしても一般人を巻き込むし、

アレグリア達にのみ被害を被るような

繊細な魔法を使えるとは思えない。

けれど――

「万が一……彼女が大技を起こして、一般人に被害が及びそうでしたら、多少怪我を負わせてでも止めましょう。」

「おっけ〜!強制遠征の初陣、頑張っちゃうよ〜!」

「さっきから何を話してるんですか!もう攻撃しちゃいますよ!」

ランドという少女は丁寧に私達のことを待っていた。

今は戦ってこそいるが、根は優しいのかもしれない。

ランドは再び両手を前方へ突き出し、

再びうねる蛇のような岩を二対、繰り出してくる。

「ハッ」

アレグリアは剣を上へ振り上げ、雷を降らす。

雷の斬撃波が二つ飛び、岩の根元を砕く。

土台を失った岩の蛇は崩れ落ちる。

「まだまだっ!」

ランドは再三、二対の岩蛇を繰り出してくる。

ふと横を見ると、いつの間にかマールの足元に魔法陣が浮かんでいた。

白色の魔法陣、確か防御壁を出現させる魔法だ。

「アレグリアばっか狙われると、アレグリアのエスアルト限界値を超えられちゃうよ!て〜い!」

気迫のない掛け声と共に、眼前に半透明の巨大な壁が現れる。

岩蛇は半透明の壁に衝突し、先端が欠ける。

エスアルト限界値とは、

一人の人間が使える魔法の上限のようなものだ。

要するに、疲れと同じようなものだ。

その疲れ、限界値を超えてまで魔法を使えば、

エスアルトではなく命を削ることとなる。

ランドは消耗戦を行うつもりなのだろうか――?

こんな若い少女に、

騎士団二人分のエスアルト限界値を超えられるのか?

「いや、待て。」

アレグリアは後ろを振り向き、壁を見やる。

このワンス村はそれ程大きくないものの、

そんな村を円形に覆う高い、高い、灰色の壁。

そしてランドの操った地面、岩は消えていない。

完全にエスアルトで作ったものなら、消えることがある。

だが、アレグリアが雷で貫いた岩蛇はただの岩石となって横たわっている。

偽装しているわけでもなさそうだ。

もしやこの灰色の壁は――

「アレグリア、何ボーッとしてるの!」

「マール、消耗戦はよくありません。」

「ほおお、それはどうして?」

「この村の壁は恐らくランドが作った物です。この壁を一度に、ではないでしょうけれど、長年作り続けたのだと思います。」

「ほおほお、その通りだったらエスアルト限界値は高〜くなってそうだね。いい推理だね!流石アレグリア〜」

消耗戦はいけない、ランドが怪我をしてもいけない。

更にアレグリアの雷では、力を弱めてもかなりの威力だ。

そしてこの村の人達に被害が及んでもいけない。

アレグリアは手を顎に置き、思索する。

――なんとか出来そうな案が一つあった。

「マール!出来る限り壁で私を守って下さい!」

「は〜い、アレグリア様に従いま〜す!」

マールは杖を振り、再び白い魔法陣が地面に浮かぶ。

恐らく二重に防御壁を作り出したのだろう。

「時間稼ぎですか?それなら私は攻撃の準備をするまでです!」

ランドが手を天に振り上げると、

各所から無数に雫型の土、砂利、岩が浮かび上がる。

「――よし。」

アレグリアは雫型の物を見て、しめたと感じた。

「マール、拘束魔法の準備を。」

「アレグリア、どうするつもり?」

「まぁ見ていて下さい。チャンスを逃さないで下さいよ。」

アレグリアがそう言うとマールはやれやれといった感じで

杖を振り、そして濃い緑色の魔法陣が浮かぶ。



昔、ブリムオン国にいた頃に

アレグリアは電気、雷について少し学んだことがある。

博識な博士と共に色々と試したものだ。

ブリムオン国王がおかしくなってしまったため、

学ぶ時間こそ少なかったものの、

得られたものはとても多く、興味深かった。

そこで学んだことを鮮明に思い出そうとしていた。

「この世の物質には、電気を通さぬものがある。何だと思うね?」

「地面などでしょうか。」

「いや、地面に電気は通る。岩や砂、土にもな。」

「ならその電気を通さない物質というのは?」

「色々とある、絶縁体の魔法物質もあるじゃろう。」

「ぜつえんたい?」

「電気を通さないもののことじゃ。覚えておけ。それでの、物質によって電気をどれ程通すかは異なる。」

「それはどうしてですか?」

「恐らく物質の中に、電気を通さない領域があるのじゃ。それを禁制帯きんせいたいと呼ぶ。」

それ以降の話は正直難しく、あまり覚えていなかった。

博士からも「最悪基本的なことさえ覚えとれば良いわい。」と言われたものだ。

だがその後の、フィールドワークはよく覚えていた。

それは様々な物に電気を流すというものだった。

「座学よりはわかりやすいじゃろう。」という言葉に多いに納得出来たものだ。

そのため日常によくある物質毎の禁制帯を、アレグリアは把握していた。

余談だが、その博士はアレグリアの剣の制作に関わっていた。

普通の剣より電気をよく通すように――。

そんなだから、電気の威力が高いのかもしれない。


アレグリアは目を細め、雫型の物体をよく観察する。

「良い物質は……まだないですね。」

アレグリアが回顧している間も、雫型の物体は増えていく。

「アレグリアぁ!もうすぐ壁がなくなるよぉ!あと十秒くらい!」

「……少し身を晒す必要がありそうですね。」

アレグリアは電気を剣に貯める。

そのまま放出すれば、生身の人間にはひとたまりもない程だ。

「さん!にぃ!いちぃ!」

マールがカウントダウンをする。

アレグリアは身構えた。

ランドも身体が更に強張ったように見えた。

「ぜろぉ!」

半透明の壁は消え、クリアな景色が見える。

同時に、雫型の物体が全てアレグリアに高速で向かって来た。

石つぶてにしては非常に鋭利で、

更にそれは向かい雨のように降り注ぐ。

電気を剣に貯めたまま振るっても、気休め程度にしかならない。

切り裂かれるような痛みを身体中に感じる。

そんな中で、アレグリアは目を大きく開く。

目に飛んでくれば、失明の恐れがある。

せめて目には当たらぬようにと、頭を動かす。

ランドは雫型の物体を飛ばしながらも、

新たに物体を作り出しもしていた。

アレグリアは意識を研ぎ澄ます。

物体を一つ一つ、観察する。

これでもない。これでもない。これでもない。

刹那、心臓が跳ねる。

丁度今、ランドの近くに完璧な物体が作られた。

恐らく、今までの物で一番最善な物。

アレグリアは剣先をランド――より斜め右上へ向ける。

「ハァァッ!」

アレグリアは剣に貯めた電気を放出する。

「アレグリアぁ!それじゃあランドが危ないよ!」

「直接当てるなんて、一言も言っていませんよ!」

アレグリアは剣先を前に向けたまま、不動を貫く。

そんな剣先から放出された電撃は、ランドには飛んでいかない。

「えぇ!?外しちゃってるよ!」

電撃は、ランドの近くの物体に近付き、接触する。

「一体、貴方達は何をやって――」

「今ですっ!!!」

アレグリアは剣を、大きく左へ振るいながら、腰に下げる。

そして物体に当たり、不発と思われた電撃は

再び物体から表れ、ランドへと向かい、衝突する。

「ひょわっっ」

ランドは一瞬身震いした後、姿勢を崩す。

同時に、石つぶての勢いは急減速した。

アレグリアは脚に力を入れ、まさに雷のような踏み込みを見せる。

そのままランドの背後に周り、両手の手首を取る。

「すみませんっ」

そのまま両手を背中に持ってゆき、空いた片手で首を抑えて倒れ込ませる。

同時に、彼女の手首は枷に嵌められた。

「ナイスぅアレグリアぁ!」

マールが手を振りながら近寄ってくる。

「くっ……なんか痺れちゃった……」

「痺れる程度に抑えたんですよ。」

アレグリアはうつ伏せのランドに優しく答える。

「丁度良い物質に電撃を当てて、威力を和らげたんだね~。アレグリアって天才?」

「私一人の案ではありませんよ。博士には感謝しなければなりませんね。」

けれど今は、勝利に喜ぶ暇はない。

アレグリアは、遠くからじっとこちらを窺っている

先程より一層怯えた村人達を見据えた。

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