王都追放

伊砂リオテ

第1話 王都追放

「アレグリア様、お待ちしておりました。」

「はい。」

「ええっと、アレグリア様。

本日はどうなさいますか?」

アレグリアは歩みを早める。

「貴方は侍女ですね。私に付かなくとも大丈夫です。」

「すみません。王からの指示でして。」

王からの指示――普段、王城での人手は足りていない。

どうして自分一人に人を付けておくのか。

一つの説が考え付き、アレグリアは辟易へきえきした。

ネグロ王はアレグリアの動向を把握しようとしているのだろう。

どうもきな臭い。

「どうして?王はどういった考えなのですか?」

「すみません、それはお答え出来ませんが、王からアレグリア様には付きっきりでいなさいと命じられているのです。」

アレグリアは酷く窮屈に感じた。

そして王の指示に言いようのない不安感に駆られる。

この不安が去来する理由はわからないが、

こういう時の有効策は――。

前方からローブを身に纏い、杖を手に持った

慌ただしい女性が笑顔で向かってくる。

綺麗な水色の髪をした彼女はアレグリアの親友だ。

「アレグリア〜!おはよ〜!!」

「マール、この侍女に構ってあげて下さい。」

「え〜?今日だけ特別だからね~!」

親友のマールは侍女の肩を掴み

アレグリアのことについて熱く話していた。

アレグリアはそれに見向きもせず、内容を深く聞こうともせずに歩を早めた。

今日は疲れていたので、少し休もうと考えていた。


アレグリアは、閑寂かんじゃくな野原でぼうっと立っていた。

今のアレグリアにとって、休息の時間は貴重だった。

ずっと立て続けに仕事が入っていたのだ。

束の間の休息を過ごすアレグリアに、来客が来た。

「アレグリアぁ、平和そうな顔してるね。」

「マール、それより侍女はどうしたんですか?」

「ずっと話してたらどっか行っちゃったんだよね~。」

マールは好きなものの話となれば、

立て板に水状態で、ずっと話せるような人間だ。

侍女も流石に耐えきれなかったのだろうと推測できる。

「アレグリア、最近はちょっと凄いよね〜。」

「エスアルトの過剰上昇のことですか?」


この世界にはエスアルトと言われる

エネルギーが存在する。

普段、目に見えることは決してないが

この世界の人々はこのエスアルトを活用する。

生活のために有効活用することもあれば、

戦闘のために扱おうとする者もいる。

エスアルトを扱える程度や、

どんな活用ができるかは

先天的に決まると言われている。

そんなエスアルトが今、過剰上昇しているのだ。

エスアルトは理屈は不明だが、

この世に満ち溢れており、

いつもは一定数に保たれている。

それが過剰上昇したとなれば、

エスアルトを活用する際に、

いつも以上にエスアルトを消費することが出来る。

エスアルトを一度に使える量が決まっているのだ。

例えば、今までは小さい火を起こす程度の力しか

持っていなかった者が、

自由自在と言っていいレベルまで扱えていたりする。

これによって調子に乗った奴が、

犯罪行為を犯すようになってきているのだ。


「そうそれ、王さまも慌ててるみたいだよ~?」

「私達は指示を待つだけです。」

「ひゅ〜、アレグリアかっこいい〜!」

「ただの指示待ちなんですけどね。

自身で勝手に動いていきたいものなんですが……。

それよりマール、貴方も

魔法の強度を上げないといけません。

そんな口を叩く暇はあるのですか?」

「私達は元から強いんだし、大丈夫だよ!」

「どうでしょうか。」

「大丈夫だよ~。」

「騒がしくなってきましたね、私はもう行きます。」

「私も付いてっていい〜?」

「マール、私が一匹狼なのは知っているでしょう?

私のための行動をしてくれると嬉しいです。」

「もうっ、アレグリアの意地悪っ。」

マールはプンプンとでも言いそうな雰囲気で、

ブリムオン国の王都とは別方向へ向かった。

アレグリアは王都へ向かった。


アレグリアは王都に到着し、門扉をくぐる。

ブリムオン国の王城前には広大な庭があり、

アレグリアはそこを悠々と闊歩する。

確かここの庭の地下には、研究室があるというのだから驚きだ。

ぼんやりしていると、突然全方位から人が向かってくる。

アレグリアは腰の帯剣を抜こうとするが、

向かってくる人の格好を見て、全身の力を抜く。

全員が、ブリムオン国の兵士達だったのだ。

王都に到着したアレグリアは包囲されていた。

自分の国の兵士達に。

アレグリアは、ブリムオン国の騎士長である。

流石のアレグリアでも、この状況には当惑していた。

「そう押し黙って武器を構えないで下さい。

訳を話して貰えると有り難いのですが。」

「アレグリア、私だ。今から話をする。」

兵士の輪に入り、

ネグロ王はアレグリアの眼前に立つ。

「お前は、私の観察を振り切ったのだ。

この国から出ていって貰う。」

「王、お言葉ですが、正常で御座いますか?」

「黙れ、早く国から出て行くんだ。」

アレグリアは訝しんだ。

どう考えても、今のネグロ王は正常ではない。

だが、この状況ではどうしようもなさそうだった。

アレグリアがその気になれば、

取り囲む兵士達は楽に蹴散らせる。

だが、それは悪手でしかないとアレグリアは判断した。

かといって、兵士達に危害を加えることなく、

この場を切り抜ける方法は――。

ブリムオン国上空の空は青く、雲ひとつない。快晴だ。

こんな状況なら尚の事――。

アレグリアは帯剣を抜く。

それと同時に、周囲からはどよめきが巡る。

「アレグリア、私に歯向かうのか?」

動揺した兵士を落ち着かせるためか、

荘厳な雰囲気を醸し出すネグロ王を横目に

アレグリアは剣を天高く青天井に向け、目を閉じる。

意識を研ぎ澄まし、兵士を傷付けぬことを前提に――。

そんな中、稲光がアレグリアの剣先に飛び掛かった。

兵士達は驚き、腰を抜かす者もいた。

「おい、アレグリアが雷を操るのは知ってるだろう。早く立たないか」

「兵士共、アレグリアは余程の事がない限り人に怪我を負わせたりしない。現に、怪我人は一人もいない。」

琴線に触れるような声が聞こえる。

いつの間にか、一人増えていた。周りが鎧を着込む中、

先程はいなかった赤髪の彼女は、

タキシードと修道服が合わさったような身なりだ。

彼女は国王の傍に立っており、静かに口を開いている。

顔には、真新しい傷跡が一つ付いていた。

確か、ブリムオン国副騎士団長のグランだったか。

アレグリアは攪拌されたような記憶から回顧する。

グランの能力は、アレグリアも知らなかった。

「アレグリア、貴方の能力は把握している。

剣を媒介に、電撃を自由自在に操る能力。

流石の貴方でもこんな状況だと勝てはしない。」

こんな状況だと、アレグリアは大きく不利だった。

彼女、グランとの間に圧倒的な情報の差がある。

アレグリアは腰の横で僅かに剣を振る。

それを見逃さなかったグランは双眸を大きく見開く。

「ネグロ王、突撃許可を。」

「なんだ、急にどうしたんだグラン。」

「アレグリアは何か行おうとしている。」

「なに、問題ない。」

国王がそう答えている間に、

アレグリアの立つ地面に青白い魔法陣が現れた。

それと同時に、兵士達はまたどよめく。

――どうにか、無事に切り抜けられそうだ。

だが一体どういうことなのだろうか。

けれど今はそれどころじゃない。

「国王、また戻って参ります。それまでに賢明なご判断を。」

アレグリアがそう言うと、

アレグリアの眼前は白に包まれた。

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