第8話
第2章 第4節「前線都市」
さて。
前線都市は内海を境界として東西に二分されている。両者をつなぐのは、鶴翼大橋と呼ばれる巨大な吊り橋のみ。故に存外物理的な距離があり、となれば文化や慣習にも多少の違いが生じるものである。特に、戦争に関する部分には。
討伐部隊を編成し外敵を迎撃。その点に変わりはないが、一方で戦闘に対する両者のスタンスは大きく異なっている。すなわち、強者が弱者を庇い全員で生き残ることを優先するか。あるいは、弱者を犠牲に強者がより多くの敵を討つことを優先するか。目的は同じであっても方法は対極的であり、互いの思想を理解できないのも当然だ。
つまり両者にとって、互いの存在は“あまり気の合わない味方”程度に過ぎないのだった。敵対こそしていないものの、積極的に協力するほど親しくもない。
――ただし、ルカにとってはほんの少しだけ、西地区にも思うところがあるのだけれど。
その事情を知っているリクは、鶴翼大橋の上で合流すると黙ってルカの目を見上げていた。深紅の視線を受けて、ルカは肩をすくめる。
「今日は仕事ですし、何もする気はないですよ」
「……それでいいの?」
「もちろん」
「君のそういうところは、長所ではあるけれどね」
東から西へと歩み出しながら、リクはやや不満げに言った。
「もうちょっと素直に生きてもいいんじゃないかな。少なくとも僕は、君のわがままなところを見てみたいけれど」
「あはは。じゃあ、忙しくないときにでも」
そんな軽口を叩いている間にも、遠くの方からいくつか監視の気配を感じている。東地区迎撃部隊長大鏡リクと、その副官であるルカ。いわば東地区のトップ2が唐突に境界を渡ってこようとしているのだから警戒されるのもまぁ想定内ではあった。流石に、反射で攻撃してくるほど短絡的ではないだろうという評価も含めて。だから二人は狙撃にだけはやや気を使いながらも、悠々と橋の真ん中を歩いていく。
けれど、橋の中央付近まで来たところで。リクが勢いよく空を振り仰いだ。
「――ルカ」
応答する間すら惜しんで、咄嗟にルカは魔術を展開する。彼の固有魔術・[千里眼]の術式が脳内の魔力管制デバイスに入力され発動するまでおよそ0.13秒。強化された彼の両目があらゆる障害物を透過し対象との距離すら無視して“それ”を視認するまでさらに0.02秒。
「西地区上空より砲撃、距離2000!」
「“エリザ”」
ただそれだけの命令で意を察した“エリザベート“が、待機状態から戦闘形態に移行しリクの両隣に現れる。リクはルカを守るように一歩前に出ると、油断なく掌を前方斜め上へと向けた。“エリザベート”の、女性らしさの残る機械音声が響く。
[ディフェンスゲイン]
ふたりを轟音と衝撃が襲ったのは、その一瞬後のことだった。
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