第2話 噂

暗い夜道を、1人で歩いていた。

両親からの嫌がらせなのか、馬車が用意されておらず、片道1時間の距離を歩く。

歩き始めて、5分ほど経っただろうか。

馬車の音が聞こえたかと思うと、後ろから突然声をかけられた。



「こんばんは。」

「誰!?」

「そう警戒しないでくれ。私はルアという。君の名前は?」

「私はサリーエと……申します。」



話しかけてきたのは、私と同世代くらいの青年だった。



「何故暗い夜道を、1人で歩いているんだい?それに、酷い顔色だよ。」

「……っ…。」

「ああ、ちょっと、サリーエさん!?…仕方ない、パーティー会場へは行かず、このまま引き返す。」

「で、ですが…。」

「体調が優れない為、行けなくなったと伝えておけばいい。私はサリーエを連れて戻る。」

「しょ……承知致しました。」



私は気が抜けてしまった。

そこからどうなったのか、覚えていない。

しかし、目が覚めた時には見知らぬ場所にいた。

窓から見えるのは、王都だった。



「ん……うぅん?」

「目が覚めたのかい!?良かった……いきなり倒れるから驚いたよ…。」



どうやら私は倒れてしまったようだ。

青年が私の顔を覗き込んでいる。

彼は確か…



「貴方は……ルア様?ここ…は……?」

「ここは王城だよ。」

「え、お…王城!?どうして!?」

「まぁまぁ落ち着いて。それよりも、私は君の事が聞きたい。あの時の君は、絶望の淵にいるような顔をしていた。放っておいたら、自殺するんじゃないかと思うほどに。」

「……。」

「何があったんだい?パーティー会場で。」



尋ねてくる優しい声に、気付けば口が動いていた。



「私は…大公爵家のご子息、ガイディアス様の婚約者でした。」

「でした…?」

「あのパーティー会場で、婚約破棄を告げられたのです……。」

「なっ……。公の場でか?」

「……はい。」



私はルアと名乗る同い年くらいの少年に、パーティー会場での事を伝えた。

とても驚いていたが、悲しそうな表情になる。

ルアは、私に対して本当の意味での同情をしてくれた。



「妹に…奪われたのか……。ねぇ、サリーエ。君は婚約者以外にも、妹に何か奪われた事があるんじゃないか?例えば…宝石類とか。」

「っ!何故それを……。」

「実は、12歳から3年間通う学園で、君を見かけた事があってね。その時大切そうに身に付けていた首飾りが、気付くとシファナって子も付けていた。そしてその子が身に付けだした時と同じくして、君が首飾りを付けなくなった。」

「……。」

「おかしいと思ってね。そしてそのシファナって子が君の妹という事が分かり、何となく察したんだよ。」

「その首飾りは……私が友人から貰った物なのです…。でも、シファナに……っ…。」



ルアは隣に座り、抱いてくれた。

その温もりに、何故か込み上げてくるものがあった。

気付くと声を上げて泣いていた。



「我慢しないで。気が済むまで泣くといいよ。」



数分の間、私は泣き続けた。

今まで我慢していた気持ちが、自分でも驚くほどに、溢れ出してしまった。



「お見苦しいところをお見せしました…申し訳ありません。」

「構わないよ。…サリーエ。今でも、家に帰りたいか?」



少し落ち着いてきた私を見て、ルアが問う。

その問いに、私は頭を振った。



「分かった。どうにかしてあげるよ。」

「え…?」



その後、私は数日間、王城で暮らした。

と言っても、部屋から一度も出たことは無かったのだが。

ルアは私の今までの話を全て聞いてくれた。

その他の宝石類や、衣服を奪われた事も。

ルアの前だけ、何故か本音で話すことが出来た。


そして今日、気になる噂を私の部屋に出入りしていたメイドが言った。



「サリーエ様。とある貴族の噂、お聞きしましたか?」

「聞いていませんわね…。どのような内容なのですか?」

「『姉を放置し、妹ばかりを着飾らせていた貴族がいる』というものです。さらには、妹は姉のものを全て奪っていたとか。所詮は噂ですがね。」

「……。」

「本当にそんな人がいるのならば、最低な親ですよね…。」

「ええ……本当に…。」



紛れもなく、私やシファナの噂だったのだ。

メイドは私の事をルアが連れてきた客人としか知らない。

有名でもない為、家名を言わなければ貴族だと気付かれないのだ。



(一体何が起こっているのでしょう……。)

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