私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒

第1話 全てを奪われた日

サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」



リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。

その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。

当然、注目は私達に向く。

ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──



「私はシファナと共にありたい。」

「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」



泣きたい気持ちをぐっと堪え、私はパーティー会場を後にした。

憐れみの目や、くすくすと笑う声に構わず、足早に去る。



(私からどれだけ奪えば、気が済むの……?)



妹から奪われる事に、私は慣れてしまっていた。

もう、5年間も続いているのだから…。


私が2歳の時、妹シファナは生まれた。

私は薄紫の髪に水色の目で、顔立ちも整っていたので美少女と昔は言われていた。

しかし、シファナはもっと美しかった。

金髪碧眼。

誰もが見惚れるような美少女だったのだ。


私が10歳でシファナが8歳の時、街を歩く金髪碧眼の少女がいると噂になった。

私など空気で、シファナに注目が集まった。

それだけならば、私も気にしなかった。

しかし、問題は家内で起きた。



「シファナ、欲しいものがあったら言ってくれ。何でも買ってやるからな。」

「ええ。遠慮せずに言うのよ、シファナ。」

「うん!私ね、可愛いくてきれいなおよう服がほしい!」

「まぁ!分かったわ。貴女に似合う、とびきり可愛い服を買ってあげる!」

「そうだな。髪留めもシファナに合うものを買ってやろう!」

「さぁ、行きましょう!」

「うん!」



シファナは私をちらりと見ると、知らないふりをして出かけて行った。

シファナが3歳の時から、両親の態度は違うものになっていった。

「金髪に碧眼。絶対に美女に育つわ!」と言い、私の存在は薄れていった。

そしてこの噂をきっかけに、両親のシファナへの甘やかしはエスカレートする。


家でも、私は空気だった。

周りから注目されているからと、シファナを着飾る。

私は放置され、買い物へ行く時もシファナだけを連れて行く。

そんな事が1年続いた時、シファナが私の部屋へと入って来た。



「お姉様、久しぶりですわね。」

「……。」



ずっと同じ場所で暮らしていたにも関わらず、シファナはそう言った。

まるで私など忘れていたと言わんばかりに。

憐れみのような目で、私を見てくる。

しかし、そこに同情というものはなかった。



「お姉様、そこの首飾りきれい!ほしいですわ!」

「だめよ。これは大切な物なの。お友達からいただいたのよ?」

「ほしい!!」

「だめなものはだめ。でもこれはどう?貴女に似合うと思うのだけれど…。」



私は友人からの貰い物を、絶対に渡したくはなかった。

だからこそ、違う物を提案した。

しかし、



「うえぇぇえん!」

「あ、ちょっと、泣かないで。お願いだから!」

「何事だ!?」

「サリーエ!貴女、シファナに何をしたの!?」

「私は何もしていませんわ。」

「なら何故シファナが泣いている!」

「シファナ、どうしたの?」

「お姉様が…っぐ……首飾り、くれないって…っ。お父様と……お母様…はっ…くれる……のに…ぐすっ……っ…。」



最悪な事態になってしまった。

こうなると当然……



「サリーエ、シファナにその首飾りをあげなさい。」

「ですが…これは友人からいただいた、大切な首飾りで……。」

「そんな事はどうでもいい!さっさと首飾りをシファナに渡せ!」



怒鳴られた私は、これ以上の抵抗は無意味だと思い、渋々シファナに首飾りを手渡した。

するとすぐに機嫌がなおり、笑顔になる。



「ありがとう、お姉様!」

「サリーエ、貴女がすぐにあげていれば良いのよ。シファナ、お礼が言えて偉いわねぇ!」

「えへへ!」



私は絶望満ちた顔をしていた。

部屋から出て行くシファナは、私を見て笑っていた。

それ以降、5日に1回は私の部屋へ来てアクセサリーを奪っていった。

奪うアクセサリーが無くなると、今度は服を。

その次は学園で使う筆記用具を……。

ありとあらゆるものを奪われた。



そして今日、婚約者も奪われてしまった。

8歳の頃にお茶会で出会い、婚約をした人。

私が16歳になってひと月。

ガイディアス様との婚約は破棄された。

ガイディアス様だけは、奪われたくなかった。

大公爵家のご子息であり、私の初恋の人……。

そんなお方の隣で、嬉しそうに笑うシファナ。

初めて、シファナに対して怒りが込み上げきたが、どうせ何を言おうが意味が無いと思い、心を落ち着かせた…。

仕返しをする気は無い。

シファナをあんな風に育てたのは両親なのだから。

彼女も悪いと言えば悪いが、責めるつもりも無かった。



「きっといつか、3人に不幸な事が起こるのでしょうね…。」



悪い事をすれば、必ず自分にも返ってくる──

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