第85話
さて、親方の作業が終わるのを待っていた二週間を俺達はただのんびりと過ごしていたわけじゃない。
いや、ほんとはのんびりするつもりだったんだけど。
翌日はネザニクスさんの歓待がビックリするぐらい豪勢なものだったから昼前まで寝てたんだけど。起きてからネギルイエさんのところに
色々な露店や商店を眺めてまわって、身の回り品や新居に据えつける家具なんかも見てみた。
エイシャ、
「キングサイズだと狭いよね」
「ん、いっそダブルを二つ置く」
「でも、部屋が狭くならない?」
「こっちのベッドは下に収納も無いしね」
「そこはやっぱりオーダーメイドじゃない?」
「収納? どんなの?」
「うん、あのね……」
ふと話し声がやんだからと
アフェクトとセリシェールはソファーを置いているところで座り比べをしていてアフェクトのお気に入りは二人掛けのもの凄くふわっとした座り心地の身体が包み込まれると錯覚するくらいヤバイヤツ。あのソファーは人間を駄目にするやつだ。きっとあれに座ったら話しかけられても「あ〜〜」とか「ん〜〜」としか答えられなくなる。そんな気がするヤツだ。
セリシェールが気になっているのは背もたれ部分が他のソファーより高くなっていて座面の感触が低反発クッションを思い出させるもの。このソファーはひとり掛けでアールを描いた背もたれと付け替えられる硬度の違う背中側のクッションが付属してくるソファー。背もたれのクッションは三段階の硬度があった気がする。
こんな風に皆んなが店舗内を見てまわってる間、一人だけ戸惑っていたのがミドヴィス。奴隷だったミドヴィスにとって自分のために家財道具を購入するということがとんでもなく贅沢なように思えていたからだ。
「ミドヴィスはこんなのがあったら生活が便利になるって思えるの無い?」
「便利…… そうですね、そう言う見方もあるんですね。もう少し見てみます」
「ん、ああ、わかった」
その結果、このお店ではセリシェールの気になっていたソファーとミドヴィスが選んだドレッサーとスツールのセットにそれに組み合わせるチェストを買った。
「いいなぁ」
「ずるい」
そう言っていた二人。君たちが見ていたのはベッドだっただろう、それに『収納が……』とか言ってたからそっちは帰ってからのオーダーになるだろうからそんなことは言わないの。隣でエイシャが呆れた目で見てるぞ。
「アフェクトは買わなくていいのか、あのソファー?」
「うむ、あれは危険だからな」
「ああ、駄目になりそうだったもんな……」
「ああ、アレは駄目になるヤツだ。アレに座って誰かが給仕してくれたらあそこから離れられなくなりそうだからな」
「なるほど。わかる」
「ん、なにがわかる?」
「ああ、アフェクトが気になっていたこのソファーなんだけど……」
そうエイシャに言うとぐいっと腕を引かれて二人でそのソファーにボフンと包まれた。
「ふわぁ……」
思わず溢れたエイシャの声と二人で座ったことで普通のソファーと違って両側から包まれてより二人の身体が密着することがわかった。
「ん、これは買って帰る」
即決だった。
購入した商品は翌日の午後には配達できますとのことだったので夕方に配送してもらうことにした。
そのあとは露店のおばちゃんに教えてもらった何ヶ所かある公園のひとつ、庭園風に整備されて池や水路がいい感じのところで寛いだ。
周りを見れば他所から来たとわかる者の方が多い。ある意味、観光スポットなんだろうな。
まあ、こんな感じで店を見て観光をして三日間過ごした。
二日目の午後に急に雨が降ってきたのはちょっと残念だったけど。結構な雨量ですぐ雨宿りに近くの店に駆け込んだけどずぶ濡れになっていた。
ちょっと悪い気がしたけど代わりにちゃんとその店でオススメされた料理を注文した。昼食を食べたあとだったからちょっときつかったけど。
その雨のせいで購入した家具の配送は三日目の朝に変更になった。
四日目から七日目にかけては探索者組合に顔を出して採取依頼を受けた。
薬の素材になる薬草なんかが足りないということだったので少しは探索者らしいことをしようかという流れでのんびりと採取にあたった。
この一週間、のんびり過ごしすぎて逆にしんどくなってきているのはなんでだろう?
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