第2話ギルド設立

神の茶会を終えて家に戻った優華は考えた。


(そろそろ人間達の様子見しないとだめか? 最近外に出ていなかったし、出たとしてもここは森の中だからな。人となんて会えないし会う必要もなかったが、そろそろ出ないとだめな気がする)


優華は人類を虐殺して様子見をしたりしていたが、あまりにも事件などが起こらず、引きこもってしまったのだ。

ここ数百年間は暇になっていたし、一人好きの優華も少しだけ寂しくなってきた。

これはいい機会だと思う。

優華は脱引きこもりを目標に掲げ、いよいよ外に出る。

家の扉を開けて見えたのはどこまでも続く森だ。鳥たちが賑やかに鳴いていて、その鳴き声でもって優華を見送ってくれる。

さぁ、旅立ちの時だ!

らんらんと歩く優華だが、傍から見たらどうしても不審者にしか見えない。

フードを深くかぶり顔には仮面をつけるローブ姿、どこからどう見ても不審者だ。

これからこの姿に苦労することを優華はまだ知らない。



森を進むこと数時間、優華は陸ではなく空を進んでいた。魔力を応用すれば、こういうこともできるようになるのだ。

見渡す限りの森の中で不自然に開けているところが続くようにしてできていた。

そう、これは道だ。人間が作った道があった。

この道に沿っていけば、必ず村や街につながるだろう。

道を進むことしばらく、なにやら騒がしい音が聞こえてきた。


「あはははは、さっさと犯しちまおうぜ!」


「そうだな! さっさとやって、早くトンズラするぞ」


「やめてよ!私をお家に返して!」


「やなこった。さぁ、お前はどんな声で鳴いてくれるのかなぁ」


三人の獣が一人の少女を襲っているところだった。あたりには死体がいくつか転がっている。服装からして裕福な家庭なのだろう。


(めんどくさいなぁ、ほんと。私はそれほど暇ではないのに。仕方ない、助けてやるか)


三人は少女に夢中だ。それ故注意が怠ってしまう。だから優華の接近に気付けなかった。いや、十分に注意したとしても光の速さには気付けないだろうが。


「ごふ・・・・」


一人が状況を理解する前に死ぬ。


「何が?!」


仲間が死んだことで盗賊たちが気付いてこちらを見る。


「え?・・・・何だ? お前は」


盗賊たちが見たのは仮面を付け、フードを深く被った者。全体的に真っ黒で、まるで死神のように見える。

背は高く、威厳に溢れている。

手に持つ自分たちが知らない武器で仲間を殺したのだろう。

盗賊たちは悟る、ああ、俺達も殺されるのだろう、と。


「私は通りすがりの旅人だ」


盗賊たちが最後に聞いたのは、静かな男? のような声と、甲高い金属のような音だった。



盗賊を片付けた優華は少女に向き直り、まだ少し怯えている少女に声をかける。


「大丈夫か?」


出た声は普段とは違う男の声。これは、仮面に付与した魔術によるものだ。これで優華の正体に気付くものはいないだろう。

そして、背も盛った。日々悩んでいたがここで解消された。


「・・えっと・・・大丈夫です。・・・・あの、助けてくれた人にこんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、あなたは邪神か悪魔ですか?」


一瞬でバレた。


(・・・完璧な変装のはずだ! なぜバレた?! いや、まだ大丈夫だ。チャンスはある。多分混乱しているんだ。そうでなければ私が邪神なんて思わないはず)


内心大慌てな優華は急いではぐらかす。


「さてどうだかな。君がそれを判断するんじゃないか?」


自分の声がおかしくないか確認しながらそう言う優華だが、自分の格好がどれだけ怪しいかは理解していない。


「そう、ですよね。さすがにこんなところに邪神なんかいるわけ無いですよね」


少女が理解してくれてホッとする優華は何事もなかったように少女に問う。


「君、名前は?」


「あ、私はルリ・ストールといいます。改めて、私を盗賊から救っていただきありがとうございます」

お礼を言うルリという少女は、どこか暗い顔をしていた。


「今日は王都にお出かけに行く最中だったんですがまさか盗賊に襲われて家族を亡くすとは。······本当に私は運がないですね」


今にも泣きそうな少女は消え入るような声で話す。そんなルリを見ていられなくて、優華は少し質問をする。


「質問、今から君の親が生き返るとしよう。君は何を捧げる?」


ルリは少し戸惑って答える。

「私にできることなら何でもします」

それが、口先だけの言葉ではないことは少女の目が十分に証明していた。


「わかった。じゃあ一つだけ、これから起こることは他言無用で頼む」


「それは・・・どういう・・・!」


変化は一瞬で起きた。死体が光だし、傷がなくなっていく。一つの死体だけでなく、転がっていた死体すべてが眩しく光る。

光がなくなった頃には、さっきまで死体だったとは思えない程に気持ちよく眠る者達がいた。



魔術『生命の息吹』



優華が使った魔術だ。死者を蘇らせる効果を持つ魔術は、人間には絶対にできない、まさに神の御業だ。


「あれ? 私は何を。たしか盗賊に襲われたはずなんだが」


「お父様!」


生き返った父親に抱きつくルリは、さっきまで溜まっていたものを吐き出すように泣いた。ただただ、泣いた。


「・・・うぅ・・・一生の恥です。あんな恥ずかしいことをしてしまうとは·····」


幾分か泣き、我に返ったルリは一心に悶えながらうずくまる。


「いやぁ、私は嬉しかったぞ。まさかこんなに私を心配してくれていたとは。ほんとにあなたには感謝しかありません。盗賊から娘を守るばかりか私達を蘇生してくれるとは。この御恩、一生忘れません」


「気にするな、このことを黙ってくれたらそれでいい。急ぎの用事があるんだ。私は行く」


そんなに急いではいないのだが、貴族とはあまり関わりたくない優華は一刻も早くここを立ち去ろうとする。


「もしかして王都に行かれるのですか? 流石に貰った恩が多すぎます。私達で良ければ一緒に同行させてはもらえないでしょうか」


「そうか、それはありがたいな。じゃあ、一緒に行こうか」


あまり貴族と一緒にいたくない優華だが、王都までの道のりがわからないので、仕方なく了承した。

「ありがとうございます。ああ! 自己紹介がまだでしたな。私はのシルク・ストールと申します」


「よろしくシルク。私の名はシンだ。わけあって旅をしている。王都までの間、よろしく頼むぞ」


「はいシン様。これからよろしくお願いします」


優華はシルク達と数日を過ごし、無事王都までたどり着くことができた。


「王都までの案内礼を言う。気を付けるんだぞ」


「はい、シン様もお気を付けて」


「ありがとうございます! シン様! また絶対会いに行きます! ご機嫌ようーー!」


シルク達と分かれた優華は、冒険者ギルドに来ていた。


(ここが冒険者ギルドか。それにしても、人間の文化は結構衰退したな。まるで中世ヨーロッパみたいだ)


目の前のギルド含め、たくさんの家や物が石造りになっている。王都の中央ら辺には、大きな城が建っている。

誰が見ても、ここが元日本とは思わないだろう。


(私がいない間に何があったのか。まぁ、私には関係ないか)


優華はあまり気にした様子もなくギルドの扉を開ける。

中にはザ・冒険者という人達がたくさんいる。その全員が優華を見ていた。


(な、何だ? 私なにかしたか?!)


注目されるのになれていない優華はそわそわしながら受付に行く。


「こちらギルド英雄の集いです。今日はなんのご用件でしょうか?」


引きつった笑顔で対応する受付嬢、警戒する冒険者達、状況を理解していない優華。

カオスな現場になっている。


「ギルドについて知りたい」


「わかりました。では、ギルドについて説明を行います」


「すまないな」


優華の返事を聞いて、冒険者達は警戒をとき、肩の力を抜いた。


「まずギルドには冒険者ギルドと商業ギルド、そしてその二つを担当するギルドがあります。まずは冒険者ギルドからです。冒険者ギルドは冒険者が依頼を受ける場を設ける場になり、非常事態のときには騎士団と共に対応します。また冒険者は魔物を狩るのが主な仕事で、倒せば倒すほど儲かります。素材も売ればお金になりますし、ランクが上がれば、指名依頼なども受けることがあります。ランクはEからSまでになります。ギルドに貢献することでもランクは上がります。主に依頼を多く受けたりしてくれると上がります。もちろん失敗したら下がることもありますよ。

次に商業ギルドです。商業ギルドは土地の管理、商品などの売買の管理などを主にしています。店を開く方なども絶対に利用しないといけません。稀に冒険者ギルドと商業ギルドをいっしょに行うギルドもありますが、大規模で大人数なことが多いです。

最後にギルドを経営する方法です。ギルドは個人で作ることが可能です。ですが依頼の達成率が低ければギルドへの信用度も下がり、国に潰されることがありますので優秀な人材を確保しなければなりません。これでおおまかなギルドの説明は以上です」


「よくわかった。ありがとう。私はギルドを作りたいのだが、手続きなどはあるのか?」


「なるほど。ギルドを作りたいんですか。ではどちらのギルドにするかなんですが、どうしますか?」

「私はできることが多いからな。どちらもやろうと思う」


優華は今の世界について知る必要がある。情報を集めるにはどちらもやったほうがいいだろう。


「わかりました。ではどちらにも登録する必要がありますね。登録は一度にできるので説明しますね。まずはスキルです。スキルは特別な人間が持つ力とされています。貴族なんかは持っている人が多いですね。このスキルにも一応ランクがあり、EからSにわけられています。Eランクはあってもなくても同じようなもの、Sランクは英雄レベルだとされています。あなたのスキルはなんですか?」


「私は自分のスキルを知らないのだが」


スキル


それは優華が人間達に与えたものだ。人間を虐殺した優華だが、絶滅はさせないために餞別として与えたのだ。

絶滅させてしまえば人間のやっていることと同じだ。なので自らの意思で生きれるようにさせてあげたのだ。


「そうなんですか。わかりました。では、スキルなしで一応登録しておきましょう。これで登録は終わりです。次にギルドの登録を行います。まず、ギルドの名前と、職員の名前を書いてください」


(ギルド名か。考えてなかったな。ふむ・・・よし、これだな)


「職員はシンさんだけ、ギルド名は夜の宮ですか。はい、わかりました。次にギルドの場所です。ここ王都にはたくさんの空きギルドがあります。その中からでもいいですし、王都から出た町や村でもいいですよ。あなたのギルドに適したものを選んでください」


「そうだな・・・ここにしよう」


「ここですね。承りました。ここは無料ですので、好きにお使いください。これで終わりです。ありがとうございました」


登録が終わったので帰ろうとする優華に立ちはだかるものがいた。


「おいおい、ギルド長にはな、それなりの実力がないといけないんだ。初心者の冒険者がギルド長なんて聞いたことがねえ」


チンピラのような格好をした男が語りながら剣を抜く。


「俺が試してやるよ。俺に勝てたらお前はギルド長に足る人物というわけだ。負けたらもちろんギルド長の登録を消してもらうからな」


「わかった。相手になろう」


そういうものだと割り切った優華は了承する。


「ふん、じゃあ外の仮闘技場でやるぞ。ついてこい」


そう言い進むチンピラに進むことしばらく、人がいない闘技場に連れてこられた。

闘技場は結構な広さで、一般の学校の校庭くらいはありそうだ。


「それじゃあ、始めるか。この銅貨が落ちたらスタートだ。構えろ。じゃあいくぞ!」


銅貨が上にいき落ちた瞬間、チンピラが動く。剣を優華のギリギリで止めるようにしながら、首にもっていく。

だが、それは優華には遅すぎた。

チンピラが切ろうとしたのは、優華であって優華ではない。


「残像だ」


「な・・・!」


気付いたら後ろにいる。気付いたら勝負は決まっている。

チンピラの首元には、チンピラが普段解体に使うナイフがあてられていた。

いつも腰にしまっているものが、自分の知らない間に抜き取られ、武器に使われている。

これは、誰も文句の言えない完敗だ。


「参った」


チンピラがその言葉を言うと、死の刃は離れていった。


「これで満足か?」


「ああ、お前なら、立派なギルド長になるだろうよ。すまなかったな。試すような真似をして。たまにいるんだよ、自分の実力をわかってないのに、急にギルド長になろうとするやつとか。でもお前は違った。お前は強え。何も心配いらんな」


「お前は優しいな」


このチンピラは、新人の冒険者が無駄に死なないよう、苦労しないようにしているのだろう。

傍から見れば柄の悪い男だが、後輩思いの優しいやつだ。少なくとも優華はそう思う。


「ふ、ありがとな」


チンピラにナイフを返し、優華は選んだギルドに行くことにした。

優華が選んだのは、王都から少し離れた村にあるものだ。

優華は人混みなどが嫌いで、できるだけ一人でいたい。そこでいいのが、あまり人が住んでいないこの村だったのだ。

優華が村に入ると、村人たちは怪しむ目で優華を見ていた。

当たり前である。このような不審者同然の格好をしたものを怪しまない方がおかしい。


「旅人さん、今日はどのようなご要件で?」


ギルドを探していた優華に問いかけるものがいた。どうやらこの村の村長のようだ。


「私はシンというものだ。今日ここにあるギルドのギルド長になった。これからよろしく頼む」


「おお、そうでしたか! こんな田舎に来る方はそうそういません。こちらこそ、よろしくおねがいします」


そう礼儀正しく告げる村長は実に村長らしい人であった。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、シン殿のギルドは何を中心に活動なさるのですか?」


村長としてごもっともな意見だ。村人達も新しくできるギルドが何をしてくれるのか気になるだろう。


「私は器用だからな。魔物の討伐から料理や掃除など幅広くできる。だから私のギルドは時に魔物討伐をし、時に料理屋にもなる。また村の家の修理や相談窓口にもなる。主な仕事はこんなところか」


「ほぅ・・・! なんと素晴らしいギルドでしょうか! 普通のギルドでは絶対に受けない仕事を率先して受けてくださるのですね!? こんなに素晴らしいギルドはほかにありません。ぜひ協力させてください!」


「あ、ああ。後々何か困ることもあると思うからな。そのときにお願いする」


村長のものすごい剣幕に押され、優華は仕方なく約束を結んだのであった。



村長とのやり取りの後、優華は自分のギルドに来ていた。

優華が選んだのはこの村の端にある木でできたギルドだ。

ギルドだけあって、村の建物の中でも一番大きくなっている。

中に入ると、いくつかの机椅子、受付台と厨房などがあった。二階には宿泊室やギルド長の業務室、後はギルド長の私室など、数多くの部屋がある。

その中には鍛冶を行う場などもあります随分と優遇されていることがわかった。

ギルドの仕事は明日からなので、優華が今日は明日からの予定などを立てていくことにした。

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