孤独を愛する神様
呂色黒羽
一章 始まりの章
第1話暇な神
家に少女が一人、退屈そうにしていた。
透き通リ輝く白髪に白磁の肌、典型的なジト目の瞳は、紅く染まった月を写したようで、どこか神秘的だ。
成長途中の体で小柄だが、容姿のせいで老若男女問わず誰もが見惚れてしまう美しさがあった。
傍から見れば、この世の全ての美を体現させているかのようだ。
そんな少女が一言呟いた。
「暇だ」
それはそれは暇そうに、残念そうに呟いた。それも、誰もが聞き惚れてしまうであろう美しい声で。
神森優華、それは神の名前だ。この世界で唯一無二の神。
もちろん他の世界にも神はいる。ただ、孤独を愛する創造神なんてものはいないだろう。
そう、優華は孤独をこよなく愛し、一人で暇を持て余すのが好きだ。たまにはアニメも見て、ゴロゴロしながら怠惰な生活を送っている。
誰にも迷惑をかけない。誰にも邪魔されない。そんな生活が好きだ。
どうしてみんな一人が嫌いなんだろう。
いつも優華が思うことだ。
なぜ人間は一人では生きられないんだろう。
なんで社会というルールを作って自ら自分を縛って生きているんだろう。
どうして他の生物を意味もなく殺すのだろう。それは許されることなのだろうか?
優華は壊した、世界を。神になった瞬間全てを壊した。
たくさんの命が散った。世界中の人間を殺し尽くした。親族以外は。
優華も家族を殺すことはできなかったのだ。人間を殺した後、家族だけでも楽な生活をと思い、魔法を創った。魔力を駆使して魔法を扱えるようにして、世界を自然で満たした。
自然で満たせば、食料は困らないだろう。そんな考えで、色々した。
家族は優華が死んだと思い悲しんだが、しっかりと前を向き子孫を繁栄させていった。
それから数万年。その内の数千年を優華は一人で過ごした。
孤独な生活はすごく楽しくて、満喫できた。時間なんて感じない生活は面白かった。
優華はこの数千年間誰にも会っていなかった。
その理由は、魔境と呼ばれる森の中に家があるからだ。
数が多く、個々の強さもトップクラスレベルの魔物達がいる森なんて誰も近付かない。
時々龍が出たりもするが、普通に静かで綺麗な場所だ。
家のそばには泉があり、時々昼寝などもできる。ここは優華にとっては楽園だ。
だが、最近は暇つぶしの生活が終わろうとしている。
それは、新人の神のクラスを決め、他の神との交流を深める事が目的として開催される、神の茶会に招待されたからだ。
前々から招待状が送られてきていたが、優華は面倒だからだという理由で、全て断っていた。
だが今回は、直々に使者がくるので強制的に連行されるだろう。
この先の事を考え、泣きそうになる優華はいざというときのために武器を作ることにした。使者が来るまで後三日ほどある。
それまでに完成させればいい。だが、武器の素材がないという問題に衝突した。
これでは武器が作れない。
優華が作りたい武器は、簡単に言えば頑丈で壊れないものだ。
だが、神である優華の全力に耐える素材などこの世界にはない。
この世界にあるのは鉱物として最高に硬く頑丈なオリハルコンなどだが、それでも優華の全力には耐えられない。
そもそも他の神と何か戦闘になったときに使うものだ。生半可なものじゃいけない。
それに優華の全力に耐えられても他の神の一撃に耐えられなければ意味がない。
でもその素材がない。
「創るか」
なので優華は創ることにした。
優華は神になる際、二つの特別な能力を得た。
その一つ、名は――
『創造』
名前の通り全ての物を創る事ができる。この能力で神の一撃を耐える素材を創ろうというのだ。
武器をそのまま創れば簡単だが、それだとなぜか性能が落ち、しかも時間制限まであるので実用的ではない。
あくまで『創造』の能力は創る事に特化している。攻撃には使えないし、防御もあってないようなもの。
なので素材を創り、自分で作った方が良いものができるし実用的だ。
三日後、無事に優華は武器を作る事ができた。そして、神の茶会の使者が送られてきた。
「優華様、今日こそは神の茶会に出てもらいます。異論は許しません」
否、使者ではなくヤクザメイドだった。メイドなのに纏う雰囲気はヤクザに近い。
(・・・・こっっっっわ!)
力ではない、逆らえない怒りを向けてくる使者に、優華は怯えながらも従うことにした。
「申し遅れました。私は神の茶会の使者として送られてきましたイリスと申します。今日こそは優華様を神の茶会に招待させていただきます」
丁寧な口調で言っているが、絶対に逃さないという怨念のようなものを優華はたしかに感じた。
「この門を通ってしまえば会場に着きますので、早くお通りください」
「わかった」
優華はイリスの言うとおりに門を通る。
門を抜け、周りを見渡してみる。
信じられない光景だ。まるで夢のような世界。
門の先には野原が広がっていて、空には浮島とオーロラ、様々な惑星が見える。ここは夢なのかと誰もが思うだろう。
だが不自然に置かれたイスと机によってここが夢ではないとわかる。
「あなたが優華さんですか。なかなかに可愛い顔をしていますね」
「たしかにこの色男である僕も惚れてしまいそうだよ。レディこのあとどうかな?」
「お前はうざがられて無理だろ。優華ちゃん、俺なんかどうかな。あ、本気にしないでくれよ! 少しからかっただけだからな」
「これこれ小僧ども。貴様らも一応最上位神であるぞ。もうちょっと威厳のある言動をしたらどうじゃ? そんなでは後輩に示しがつかん」
「そうだよ、僕達は最上位神なんだから敬われないといけないんだよ」
優華が辺りを見回しているとこちら側に近付いてくる者達がいた。
真面目そうな見た目の眼鏡をかけた女性、チャラい男に強面のおっさん、壮大な口調の幼女と笑顔が特徴的な少年。
この場所には不釣り合いな面々だが、会話の内容から全員が最上位神らしい。
神は強さによって階級を付けられる。
下から下位神、上位神、最上位神となっている。彼らは一見キチガイのような連中に見えて、とんでもない力の持ち主達だ。
ただ優華にはただのキチガイの集団にしか見えなかったようだ。
「優華だ。よろしく」
「お主全く緊張しておらんのう」
「そうだよ。というか毎回この茶会を断って、挙句の果てには送った使者をボコボコにした人が言うセリフじゃないでしょ」
そう。優華を神の茶会に参加させるためにこの最上位神たちは前も使者を送っていた。
だが優華はそんなことは知らずに、ほとんどのものを半殺しにしてしまった。
神は自分の体にある魔力を使って魔術を行使したり、自分の怪我を治すことができる。
だが優華は使者達の魔力がなくなるまで攻撃したので、使者たちは全員が魔力を失い、神ではなくなってしまったのだ。
「で、私になんのようだ?」
「その件なのだがな、優華殿が倒した使者の中には上位神も複数いたのだ。そやつら全員を神から落とした優華には、今日無理矢理にでも来てほしかったのじゃ」
「くわしく言いますと、上位神を複数人相手に傷も負わずに撃退した優華さん程の実力者がいつまで経っても神界に顔を出さないのは異常なことです」
「そうだぞ。一回くらいは顔を出さなきゃ、不審に思われてしまうぞ」
「そうだよ。優華さんはもう最上位神なんだから責任感持たないと」
優華が呼ばれた理由を神たちが話す。その中に一つだけ気になるものがあった。
「私が最上位神?・・・・なぜだ?」
「なんでって、優華さんは上位神を複数人撃破したんだよ。それほどの強さの神が最上位神じゃないなんておかしいでしょ」
「嫌なんだが」
「だめじゃからな! 絶対にお主は最上位神になるのじゃ!」
まるで幼女が騒ぐように癇癪を起こす幼女。そこまでしてなぜ優華を最上位神にしたいのか。
「私は嫌だ。何をするのかわからない。それにまだ名前もわからない。名前がわからないものを信用できない」
目の前にいる神たちはまだ名乗りもしていない。相手にだけ名乗らせて利用しようとしてくる。そんな相手に協力するほど優華はお人好しではない。
「あ〜、そのことなんじゃがな。実を言うと我らには名がないのじゃ。名前という概念は人間が生み出したものであって神にはその概念はない」
「そうか。でも私は絶対にならない。でも、次誘うときは名前でも考えてから誘うんだな。そしたら少しは考える」
「ふむ、それはありがたい申し出じゃ。根気強く説得するからな! 待っておれよ!」
こうして優華を最上位神にするという話は一旦保留になった。
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