第91話 こころ
「唯さん!」
優愛に図示してもらった場所までなんとかたどり着いた
「純平くん、なんで、」
驚いたように目を見開いて唯さんは俺を見てくる
「唯さん、俺話さないといけない事があって」
緊張する、
ちゃんと伝わるだろうか、
左足はとても震えている
右足は緊張の震えが痛みに変わる
辛いし、やめたい、
だけどここでやらなきゃこの前と同じだ
「何?」
唯さんはいつものように優しい声で聞いてくれた
いつものように、、、
「俺、唯さんに謝らなきゃ行けなくて、俺が下手に隠そうとしたから唯さんに嫌な思いさせちゃったんじゃないかって、それで、、」
緊張でうまく言葉がまとまらない
ただお見合いのこと隠しててごめんなさい
と伝えるだけなのに、
頭の中でぐるぐると色々な言葉が渦巻いている
その中から合う言葉を見つけてすくい上げて伝える
ただそれだけなのに今の俺にはとても難しく感じた
「大丈夫、ゆっくりでいいよ、」
「ありがとう、ございます」
唯さんに言われた通り
ゆっくり、ゆっくり、すくった言葉をパズルのように型にはめていく
難しく考えちゃだめだ
今伝えるべきことだけ伝える、
俺が唯さんを好きだとか、
そんな話は今することじゃない
今する必要がある話だけをまとめる、
「父さんにお見合いをセットされてしまって
でも、俺が唯さんには伝えたくないって思っちゃって、ごめんなさい、」
伝えられた
良かった
「そっか、純平くん、お見合いするんだね」
「はい、」
「そっか、そっか、いいじゃんお見合い、将来のパートナーが見つかるかもよ?楽しんでおいでよ」
唯さんの言葉に心がざわついた
行って欲しくないと言ってほしかったのだろうか、
引き止めてほしかったのだろうか、
どちらにせよ唯さんは俺にお見合いに行ってほしいらしい
当回しに振られた
今ここで
好きです、付き合ってください
そう言えたらどれだけ良いだろうか、
だけど、今の俺にその勇気はなかった
優愛に勇気をもらったのに、、
「私こそごめんね、勝手に勘違いして、
ささっ、病室戻ろ?冷えちゃうよ?」
「はい、そうですね、」
表面上だけ収まったような
本当に伝えたいことを伝えるができなかった気がする
人のこころは相手からは見えない
それは皆同じだ
だけど、それが良いことなのか悪いことなのか
俺にはわからない
ただ俺は漠然と「相手の気持ち」という大きなかっこでくくったものを考えている
好きってなんだろう、
愛ってなんだろう、
そんなことを考えながら俺と唯さんは俺の病室に戻ることにした
さっきまでその場所で一人の少女が泣いていたことを知らずに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます