第85話 笑っていて欲しい
顔が冷たい
なんでだろう、
唯さんに声をかけたあと俺どうしたっけ、
目がとても重いように感じる
でも開けなきゃいけない、
しっかり前を見て進まなきゃいけない
ゆっくりと目を開く
公園に向かったときは暗かったはずなのに周りがとても明るく感じる
「先生、患者さん目覚ましました」
知らない女の人の声が聞こえた
頭が冴えない
ずっと霧がかかっているような感じだ
上を見ていると最初はなにか認識できなかったものが天井だとわかった
けれどこの天井は知らない天井だ
「うっくっくっ、うっ」
嗚咽が漏れているような音がする
隣で誰か泣いているのだろう
泣いてほしくない
俺はそう思い手を音のする方向へ伸ばした
「ごめん、ごめんなさい」
その人は俺の手をとるとまだ泣き止んでいないような声でそういった
普段の声とは変わっているとは言ってもその人の声は俺を安心させてくれた
「唯さん」
視覚からの情報があまりはっきりしなく
声を聞くことで誰かわかったその人の名前を呼ぶ
「ごめんなさい、ごめんなさい」
唯さんはただその言葉だけを繰り返す
俺はどうしたら良いか分からず握られている方の手に力を込めて大丈夫という意思表示をした
少しすると外から足音が聞こえた
二人か三人くらいだろうか
その人達は部屋に入ってきたかと思うと俺の近くに来た
そこからはその人達と話したり検査をした
そのおかげでやっとここが病院だとわかった
「ごめんなさい迷惑かけちゃって」
目を覚ましてから数時間が経ち
やっといつも通りの感覚を取り戻してきた
「ごめんね、本当に、」
唯さんの声はずっと元気がないままだった
「俺すごくないですか、場所わかりましたよ」
唯さんに落ち込んでいてほしくなくて
わざと元気になったようなふりをした
「純平くんはすごいね」
唯さんはそう言うと俺の頭に手を伸ばして
ゆっくり優しく撫でてくれた
「それに比べて私は、」
唯さんはそう言うとまた落ち込んだような声に戻ってしまった
「そんなことないです、唯さんはすごいですよ」
俺は唯さんを悪く言われるのが嫌だった
俺よりもすごい人なのに貶されるのが嫌だった
それが唯さん本人でも嫌な気持ちになる
「唯さんがすごい人だから、俺できれば頼りたくなくて、自分の力で解決したくて、だから今回のことは、はっきり言わなかった俺が悪いのでそんなに自分を責めないでください」
俺はその言葉を自分にも聞かせるようにゆっくりと言った
「ごめんね、本当、私馬鹿だ」
「そんなこと言わないでください、俺は唯さんのこと尊敬してるので」
「本当?ありがとう、」
唯さんはそう言うとまた俺の頭を優しく撫でてくれた、
昔のことを思い出したという話もしようと思ったがそういう雰囲気じゃないので後日しようと思う
「ふふっ、」
唯さんが突然笑いをこぼした
「どうしたんですか?」
「嬉しくて、ただ嬉しくて、」
唯さんはさっきまで笑っていたかと思うと今度は涙をこぼした
「今度は俺が」
俺はそう言うと開いている方の手を伸ばして
唯さんの頭を撫でた
「ありがとう、ありがとう」
唯さんはただその言葉を繰り返す
だけどその言葉にはさっきのような
落ち込んだ感じはなかった
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