第79話 手紙


俺は唯さんの静止を振り切り松葉杖を持って外に出た

幸いこのマンションにはエレベーターがあるのでなんとかなった

そこまで行くのはとても大変だった


「んしょ、よいしょ、」


松葉杖を使いエレベーターを目指す


「ごめんねぇ、」


途中杖を突きながら歩いているおばあさんとすれ違ったので道を譲った


「大丈夫ですよ、」


普段ならできていることも歩き方が違うだけでこうもやりづらくなる


「やっと、ついた」


息を荒くしながらエレベーターに乗り込む


「大丈夫ですか?」


乗っていた20歳ぐらいの女の人に心配された


「大丈夫です、」


「何階ですか?」


「3階でお願いします」


俺はそう返し、行き先ボタンを押してもらった



「親切にしていただきありがとうございました」


「いえいえ、足お気をつけてください」


エレベーターが3階についたのでその女の人に感謝をして降りる




途中まで行くと姉さんが気づきこちらに近づいて来る


「お〜いって足どうしたの?」


家まで一緒に歩きながら会話をする

流石に一番最初に足の心配をされる


「まぁ色々あって、心配しないで大丈夫だよ」


「そっか、お風呂とかは大丈夫なの?」


「まぁなんとか」


返事をはぐらかしてその場をしのぐ


「とりあえず入ろ」


家の前に着いたので俺はそう提案して鍵穴に鍵を差した


「ホッ」


家の中に入ると良くも悪くもあの日から何も変わっていない光景が飛び込んで来た



「なんか散らかってるけどどうしたの?」


あの日後悔と怒りが混ざったような感情になり暴れたまんま学校に行ったことを忘れていた

家の中の雰囲気もあのときのままだった

後悔と怒り、なんとも言えないような

感情の波があの日のことを再び思い出させた


「ちょっとごめん」


松葉杖をその辺に置くと

姉さんの目を盗んでさり気なく家の中を見渡す

幸いゴミは出していたので虫などは湧いていない

そのことに安堵しつつ

これから何があるのか少し怖くなる


「とりあえず話始めるよ」


いつもより何倍も怖い姉さんの雰囲気がこれから起こることが冗談じゃないことを表している

その雰囲気に圧倒されつつ家の中は散らかっていると言っても話も出来ない程じゃないので姉さんと向き合うように椅子に座る 



「あのさ、」


少しの沈黙の後姉さんが口を開いた


「どうしたの?」


少しビクビクしながらそう答える


「最近この家、住んでないでしょ?」


静かな部屋にこだまするような声で姉さんがそう言った


「気づいてたの?」


開いた口が塞がらないとは様にこのことだった


「そりゃわかるよ、そこに2週間前のパンがあったり、冷蔵庫に賞味期限切れのものがあったり、てか第一生活感がないんだよね、なんか」


名探偵のように答えにたどり着いた根拠を言っていく

俺が考えていたことが姉さんにわからないはずはなかった、姉さんは俺よりも頭が良いやっぱり俺は姉さんに敵わない


「それで、話って言うのは、」


場の空気を変えるようにそう問いかける


「これ、渡したかった、」


姉さんはそう言うとカバンから一枚の手紙を取り出した


「見てもいいの?」


俺がそう聞くと姉さんは声を出さず了承するように首を少し縦に動かした


「お見合いのお知らせ」


書いてあることを自分に理解させるように声に出した

ものを食べるときに咀嚼するように何度もその言葉を頭の中で反芻させた

だけどすぐには理解できなかった、頭が理解することを拒んだ

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