第50話 謝罪と感謝


「落ち着いた?純平くん」


「はい、二人共さっきはごめんなさい」


「桜井〜こういうときはごめんじゃなくてありがとうだぞ」


「そうそう」


「そうでしたか、ごめんなさい」


「またいった〜」


「純平くん、謝るのは大人になったら嫌というほどできます、というか嫌と言えないほどやらなきゃいけなくなります、だから子供のうちぐらいはごめんじゃなくてありがとうにしよう」


「えっと、その、ありがとう、ございます」


唯さんと芽依さんがにこにこしながらこっちを見る

あまり親しくない人に言うありがとうは慣れている

だってそれは心から言ったものではなく喉から出ている音だから

でも心から出す言葉はあまり慣れていなかった

だって言うべき人と会う機会が少なかったから


「純平くん、お菓子でも食べない?」


「食べたいです」


「姉さんあたしにもちょうだい」


「はいはい、芽依にも持ってくよ」


唯さんはそう言うと小分けになっているタイプのチョコレートお菓子を唯さんと芽依さんと俺の3つ持ってきた


「唯さん、これって」


「そう、純平くんが美味しいって言ってたやつ」


「へぇー桜井これ好きなのか、美味しいよな」


「はい、俺このお菓子好きで」


「そうそう、この味」


「本当だ、美味しい」


「ですよね」


袋の中にはお菓子が4つ入っていた

この1つを取り口の中に放り込む


いつもより美味しい

俺がこのお菓子を食べるときはいつも1人だった

暗い部屋で適当にごろごろしながら、作業のように食べていた

だけど今回は唯さんと芽依さんと味わいながら、美味しいという感情を共有しながら食べた


「やっぱり、1人で食べるより美味しいですね」


「そうか?」


「うん、美味しいね、」



その後はお風呂に入ることになった

最初に芽依さんが入って今は唯さんが入っている

俺が最初に入るのは申し訳ないのでいつも最後にしてもらっている



芽依さんと2人だ

少し恥ずかしいけど感謝を伝えられるのはここしかない


「あの、」


「どうした?桜井」


「今日はありがとうございました」


「え?何が?」


「助けてくれて」


「別に大したことはしてないよ、ただ困っている人がいたから」


「すごいですね、本当にヒーローみたいです」


「そんなヒーローなんて、、あたしさ尊敬してる人いてさその人に比べたら全然」


「そんなにすごい人なんですか?」


「そうそう、聞いた話なんだけどさ、喧嘩してる中にも颯爽と行ってさ、あたしより年下なのに、それでボコボコにされてもずっと立ってて、、なんて、そろそろ唯あがってくると思うから入ってきなよ」


「はい、」


時計を見ると話はじめぐらいから30分ほど経っていた


「ちょっと待って」


「はい?」


困惑する俺を放っておいて芽依さんは頭をわしゃわしゃ撫でた


「あたしさあんまり人から感謝されることなくて、だからこっちこそありがと」


芽依さんは頭をわしゃわしゃ撫でるので、お父さんを思い出した

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