第14話 上海の底から

「件名:上海の底からこんにちは

 本文:島木レイナです。いろんな気持ちをこめてこのメールを書いてます。


いま、上海のカフェブースにいます。明日輸送したバイクを取りに行って、書類がそろっていればそのまま西へと向かいます。ワクワクで心臓が爆発しそう!この気持ちをくれたのは、まちがいなくあなたです。


あの山での生活。お父さんと過ごした時間が私をこの世界に産んでくれました。そうです、あの冬、私は新しく生まれ変わったんだと思います。


他人と上手くいかなくて悩んで、いじめられていた私は死んで、生きることに一生懸命な私が生まれました。あなたたちがくれたこの力を、私は一生大切にして生きていきます。


って、どうしても暗くなっちゃう!えへへ!ごめんなさい、どうしてもあの日の事が頭から離れないの!だからあなたにメールすることで私は旅モードに完全チェンジ!していきたいのです!


あの日の私がみていたことを語らせてね。あの日、山から下りてきた私たちがあなた達を見つけて、お父さんがロンゲの白髪のおじいさんにすごい勢いで土下座して、しかもずっと土下座して会話にならないもんだから、目つきの鋭いスーツの人がお父さんを落ち着かせるために近くに来たんですよね。私から見て、それがお父さんの運命を決定づけたんだと思うのです。


周囲を警戒していたスーツの人が目線を外したことで、露天風呂にいた男性がこっちに歩いてきて、私は男の人の裸!って驚いたけどよく見たら海水パンツと防水バックを持っていて、そこから拳銃を取り出してパン!って打ったんですよね。


私は全部がスローモーションに見えて、お父さんの頭からビュビュ!って血が飛び出るのも、目つきの鋭い人がロンゲのおじいさんの盾になるのも、すぐに拳銃を構えるのも見えてました。


お父さんを撃った人がすぐに拳銃を下ろして、何かをしゃべって、何を話しているのかわからないけどロンゲのおじいさんが「手打ち」と言ったのだけはわかりました。


手打ちってなんのこと?お父さんはやっぱり死ななければならなかったの?


おじいさんはなんでお父さんを撃った人を許したのでしょうか?


そもそも、私だけで温泉まで行けばよかったの?


考えても考えてもわかりません。あの日について考えると頭がモヤモヤするー!


だからね、今日このメールできれいさっぱりあのモヤモヤとお別れしたいのです。あの日から2年。結構な時間が経ちましたが、やっと卒業です。


私はお父さんが殺されても後悔していないと確信しています。あのすっごい土下座をしないでいられなかったのは、なによりお父さんがすっごい土下座をしたかったからなはずだし、山を下りたら自分の身に危険が及ぶのはわかっていたはず。それでも土下座をせずにはいられなかったお父さんの意思であり、運命であり、人生であり、戦いだったんだと思います。

・・・なんかそれっぽい言葉をならべてみました。あはは、どれかはあたってるんじゃないかなと。


さて、そろそろ前を向こうと思います。何年かかるかわからないけど、私の気のすむまで、この世界を見て回ってきます。視界がキラキラしている、まるであの初雪の山みたい!」

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