大文字伝子が行く93

クライングフリーマン

大文字伝子が行く93

 午前10時。EITOベースワン。記者会見場。

 「だから、三軒茶屋駅近くの脱線事故は関係ありません。レールの老朽化って、発表があった通りです。乗客の中に『シンキチ』さんがいても、今回使い魔が起した事件とは関係ありません。そもそも、時間帯が違うでしょ。食い下がる記者は、『スパイ』と見なして調査しますよ。」理事官は、憤然として立ち去った。

 同じ頃。テレビで高遠と伝子は会見を観ていた。

 「聞いた話だけどさ。記者やってる人達って、『お受験』の為の勉強ばっかりやってたから、融通効かないんだって。」「それで、アホなのか、記者は。」「だね。」

 「前はテレビの記者もそうだったらしいよ。電波オークションでテレビはマシになったけど、新聞記者や雑誌記者に流れた人も多いらしい。」「どこで仕入れた?」  「利根川さんに聞いた。」「なら、確かだね。」

 「これ。」と、伝子は高遠に紙片を渡した。どうやら使い魔のメールの文面らしい。

 《ヤクザまで動員するとは、恐れ入った。手の内は分かったよ。今回はノーヒントだ。防げるものなら防いでみろ。》

 「それもあって、理事官はいきり立っていたのさ。」「ふうん。ヒントなしじゃ事件起きてから後始末するしかないね。」「うん。」

 その時、総子から伝子のスマホに電話がかかって来た。

 「もしもし、ねえちゃん。」伝子はスピーカーをオンにした。

 「総子か。夕べは、闘いの後の移動でくたびれただろう?」「平気、平気。副島大先輩は新幹線の中で寝てはったけどな。盛況やで、『三十三間堂の通し矢』は有名やからな。新成人の男女は午前中で、副島先輩や田坂さん、安藤さんは有段者やさかい、午後からやねん。」

「三人の案内役は頼むぞ、総子。」「うん。まかしとき。」

 総子、副島、田坂、安藤は、毎年恒例の京都の三十三間堂の通し矢に参加する為、午後2時には伝子のマンションを出て、新幹線で移動したのだった。総子は見学のみだったが。

 「総子の奴、気を遣って、使い魔や、です・パイロットのことは話さなかった。」

 「3人には、少しでもハネを延ばして欲しいね。」と、高遠は伝子に応えた。

 正午。伝子達が昼食を採っていると、ニュースで立て続けに起こった事故や事件のことを放送していた。

 1つ目。第4高速で玉突き事故。

 2つ目。渋谷のデパートの化粧品売り場で暴徒が発砲。

 3つ目。御徒町のレストランで新年会中に食中毒。

 4つ目。目白で火事(焼身自殺)。

 5つ目。元ラグビー選手が麻薬所持で逮捕。

 テレビには、『犯罪心理学の権威』とかいう、ガーシー虎雄とかいうタレントが、まことしやかに語っていた。

 「全て、です・パイロットの仕業です。」言い切るガーシーにMCが尋ねた。

 「使い魔の仕業ということですか?」「そうです。同じ時間帯で起こっているでしょ。」

 「偶然では、ないでしょうか?関連性がなさそうですが。脱線事故は。」「いいえ。無能なEITOを奴らはあざ笑っているんです。」

 MCはまずいと思ったのか、スタッフに合図を送り、コマーシャルを映らせた。

 「この人、狙われるな。ちょっと、行ってくる。」伝子は、マンションを飛び出し、バイクでテレビ局に向かった。

 高遠は、PCを起動し、EITOに連絡をした。

 第一高速。テレビ2に到着した時に、ガーシー虎雄がクルマに乗り込むのを見た伝子は、そのまま尾行した。

 途中、伝子のバイクを追い越したクルマが、ガーシーのクルマの前に出て、急ブレーキをかけて止めた。

 伝子はDDバッジを押した。DDバッジとは、着用しているだけで、ある程度のエリアをEITOが把握し、押すと、ピンポイントで座標を割り出し、緊急事態と判断して、オスプレイが出動する仕組みのバッジである。

 伝子はバイクを降りて、ガーシーと、揉めている男の所へ行った。

 「どうかされましたか?」と、声をかけると、あおり運転の男が銃を向けた。伝子はガーシーのクルマの後部ドアを開けて、ドアを盾にして、ブーメランを男の後方に投げた。ブーメランは、男の後頭部に直撃し、男は頽れた。

 伝子が男の様子を見ている内に、後ろからナイフを首に当てられた。

 「罠だったのか。」と、伝子が言うと、「その通り。」とガーシーは言った。

 早乙女が白バイで到着した時、伝子のバイクだけが現場に残っていた。

 午後1時半。EITOベースゼロ。

 「誘拐?大文字君が、か。」理事官は驚いて言った。

 「現場の様子からすると、そうとしか思えません。反対側の車線で、目撃した者もいます。今、ドライブレコーダーを解析しています。」

 早乙女の報告を受けた理事官は、「渡。エマージェンシーガールに緊急招集だ。」と言った。

 「はい。でも、副島準隊員と、田坂隊員と安藤隊員は今、京都です。」と、渡は言った。

 「では、渡辺警視も呼んでくれ。」と、理事官は言い、継いで支持を出そうとしたら、草薙は既に高遠を呼び出していた。

 「テレビ2で、ガーシーがEITO批判をした後、ガーシーが危ない、って飛び出しちゃったんです。」と、高遠は言った。

 「伝子さんのブーツには、大文字システムのガラケー発信器が入っています。」と、高遠は付け加えて言った。

 「どうして、知っているんだね?」と理事官が尋ねると、「僕が入れたからです。こういう時の為に。」と、高遠は応えた。

 ガラケー発信器は、激しい振動が加わると作動する仕組みになっている。

 「草薙。追尾しろ。オスプレイは状況に応じて出動する。」

 あおり運転のドライバーの車中。

 伝子は、後部座席に手枷足枷をされ、転がっている。

 「あんたが、何者かは、向こうに着いたら、じっくり聞くよ。」男は笑った。

 伝子は思った。(学のお節介のお陰で命拾いしそうだ。こいつらは何者だ?ガーシーは有名人の筈だが・・・そうか、どこかで入れ替わった、そっくりさんか。)

 午後3時。ある、解体前のパーキングビル。

 「何だ、殺風景だな。ソファーぐらい置いとけよ。」と、クルマを降りるなり、伝子は文句を言った。

 「五月蠅いな。」と言いながら、一脚しかないテーブルの前にガーシーは座った。

 「なんで俺たちを尾行した?サツのイヌか?」「みたいなもんかな、ワンワン!!」と伝子は言った。

 ガーシーは、メールを書き、送信した。USBのWi-Fiのようだ。

 伝子は背後から、そっと覗き込んだ。「こら!」ガーシーは伝子を突き飛ばした。

 午後3時10分。テレビ1を通じて、使い魔のメールが届いた。

 《お前らの仲間らしい女を捕まえた。エマージェンシーガールズにチャンスをやる。探し出して、やってこい。行動隊長と人質交換だ。》

 午後3時30分。

 エマージェンシーガールズがやってきた。「早いな。行動隊長は前に出ろ。」

 日向が、一歩前に出た。「私だ。人質を解放して貰おうか。」

 「その前にふん縛れ。」とガーシーは言った。

 部下が中間地点まで来ていた、日向にロープをかけた。

 「じゃあ、人質を解放して貰おうか。」「やーだよ。人質は二人だ。若い行動隊長と、そこのトシマ女だ。」

 「今、トシマって言ったか?ガーシー。」「ああ。言ったよ。ト、シ、マ。」

 「トシマだとおおおおおおおおおおお!!」

 伝子はあっという間にロープを解いた。驚いた、部下達が、エマージェンシーガールズに襲いかかった。

 エマージェンシーガールズは2手に分かれた。他のエマージェンシーガールズは、ガーシーの部下と対決したが、なぎさ、あつこ、みちるは違った。

 伝子は、ガーシーを素手で殴り始めた。なぎさ、あつこ、みちるは10秒待って伝子を止めた。「おねえさま。タイムアップです。」「おねえさま。ここまでです。」 「おねえさま。殺さないで下さい。」

 3人がかりで伝子をガーシーから引き離した。日向は、あかりがシューターでロープを解いていた。

 あつこが、軽く平手打ちをすると、ガーシーは目覚めた。

 「何なんだよ、てめえはよう。」

 「ある時は、狐面の女、ある時はワンダーウーマン、ある時はエマージェンシーガール。果たして、その実態は、大文字伝子だ!!」

 見栄を切り、どや顔する伝子に、ガーシーが言った。「大文字伝子・・・聞いた事無い。」「え?知らなかったのか?」

 なぎさがガーシーに尋ねた。「あんたが、使い魔だったのね。部下が10人しかいないってことは『弾切れ』ね。本物のガーシーはどこ?」

 「多分、日本海だな。」なぎさは、ガーシーに延髄切りを放った。

 午後7時。伝子のマンション。

 高遠がメモを読む。「伝言が2つ。一つ目は、理事官。『あんまり無茶をしないでくれ』、二つ目は、飯星さんから。『ストレス溜めると良くないので、池上先生に検査して貰って下さい。』」

 「若い子達には、ちょっとショックだったかもね、おねえさまの『発作』のこと。」と、なぎさが言った。

 「止められるのは、一佐達だけだものね。副部長が『地雷』ってよく言っているよ。」と、高遠が笑った。

 「はいはい。私がワルウございました。ごめんなさい。」2人の会話に割り込んだ。

 「今日は、帰ります。どの道、当直だし。」なぎさは静かに帰って行った。

 「学ぅ。私、悪い子?」「ううん、伝子はいつもいい子だよ。」

 「伝子はいつもいいこだよ・・・まるで、新婚夫婦みたい。」といつの間にか入って来た伝子の母である綾子が言った。

 「だまれ、くそババア!!」

 伝子は台所に行き、塩を手にした。

 そこへ、藤井が顔を出した。「あら。鯛焼きに塩は要らないわよ。」と藤井が言い、伝子の後方から、高遠が片手で拝みながら、頭を下げた。

 伝子のスマホが鳴動し、高遠が出ると総子だった。「ああ。総子ちゃん。ナイスタイミング。」「ナイスタイミング?何のこと学兄ちゃん。副島さん達、新幹線乗ったからな。伝子姉ちゃんに言うといてえ。」「了解。任しといて。」

 振り返ると、リビングに藤井が鯛焼きを並べていた。高遠は、急いでお茶の準備をし、夕食はどうしようか?と考えていた。

―完―










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