彼女の墓前

 念の為にあいつが本当に死んだのかと、それとあいつの墓の場所を調べた。

 本当に死んでいたし、本当に過労死だった。

 あいつの骨がどの墓に収められているのかも、案外すぐに見つかった。

 深夜に墓地に忍び込み、あいつの墓に向かう。

 墓はすぐに見つかった、墓石をどかし、目的のものはすぐに見つかった。

 収まっていた骨壷は一つだけ、それを開く。

「随分と、小さくなっちゃったね」

 原形なんてほとんど残っていない、随分と無茶をしていたらしい影響なのか、ちゃんとした形が残っている骨も少ないようだった。

 それでも何故か、不思議とこの骨があの天才なのだと、理屈抜きで理解できてしまう。

「お前さあ……俺のこと好きだったらしいけど……多分、俺の方がお前のこと何百倍も好きだったよ。馬鹿みたいでしょ、お前に殺されたがってたどころか離れるくらいなら殺してやるとか思ってたくせに、好きだったって気付いたのはついさっきなんだ。ほんと、馬鹿みたい」

 物言わぬ骨に、言ったところでどうにもならないことを言っていた。

 あの音声データを聞いて、お前の死を実感して、やっと自分の本心に気付いた。

 あの日、本当だったら弟に殺されるはずだったあの日、それでも最後の最後で逃げたのは、お前に殺されたかったからだったけど、それだけじゃなかった。

 もう一度お前に会いたかった。

 死ぬ前に見るのはお前の顔が良かった。

 本当に馬鹿みたい、全部全部今更だ。

「全部は無理だからさ……これだけ一緒に入れさせて」

 骨壷置いて、自分で自分の小指を噛みちぎる。

 千切った指を魔術で燃やし、骨だけになったそれを骨壷の中に。

 傷口は焼いて止血する。

 ぱっと見ただけではわからないように彼女の骨を少しだけ動かして、自分の指を下の方に沈める。

 ついでにどこの骨かはわからない爪の先くらいの彼女の骨のかけらを拾い上げて、口の中に放り込み、飲み込む。

 こんなことをしてもなんの意味もない、本当は最期に彼女を、彼女だったものをただ見たかっただけなのに、実際に目にしたらそうしたくなった。

 こんなことに意味はない、こうしたところで死後に一緒にいられるとかそういうこともないだろう。

 それでも一緒にいたかったから。

 けれど全部は無理だから。せめてかけらだけでも。

「じゃあ、ばいばい」

 骨壷の蓋を閉め、元にあった場所に納め直し、墓石も元に戻す。

 ついでに綺麗に掃除しておいた、花でも供えられればよかったけど、用意するのを忘れてしまった。

「それじゃあ、どこで死のうか」

 ここで死ぬのはやめておこう、あまりにもあからさまだし、万が一交換したことだバレたら面倒だ。

 だから、ここから少し離れた場所、そこで死のう。

「お前がいないんだったら、生きていても仕方ない」

 結局最期まで言いそびれたし言うつもりもなかったけど、お前の傍だけが、俺の居場所だったんだ。

 だからもう、一瞬たりとも生きていたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰ってきた厄災ととっくに死んでた研究者 朝霧 @asagiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ